「多死社会」で収入右肩上がりがコロナで暗転
ここで、寺院の収入構造について少し説明しよう。
正確な寺院収入を調べるすべは存在しないが、良いお寺研究会が宗勢調査の寺院収入項目を分析した結果、大手教団の1カ寺あたりの平均的収入は、浄土宗寺院が800万円、曹洞宗が700万円、浄土真宗本願寺派が720万円程度とみられる。この収入が、半分の水準まで減少しているのだから、昨年は多くの寺院が赤字決算になっていると考えられる。
こうした状況に対し、浄土宗などでは寺院の等級(経済状況などに応じた寺院の格付け)に応じた、宗独自の助成金給付に踏み切っている。
コロナの流行は経済的には比較的安定的に成長してきた仏教界にとって、突如の暗転となった。
墓じまいの増加や、死生観の変化などで個々の寺院を取り巻く状況の厳しさは指摘されているものの、それはあくまでも限定的で、マクロでは仏教界にはむしろ追い風が吹いていた。むろん寺院格差は拡大しており、弱体化した寺院はどんどん消滅している側面は否めない。
追い風が吹いている背景には、多死社会がある。厚生労働省「人口動態統計」によれば、2007年以降、死亡数が出生数を上回る状態が続いている。2005年の死者数はおよそ108万人だった。これが10年後の2015年には130万人になっている。
2020年はコロナ感染症対策の影響で、インフルエンザやコロナ以外の肺炎死、交通事故死などが減ったことで死亡数が減り、前年比9373人減(0.7%)の約138万4544人となっていたが、日本は中長期的な傾向として多死社会化の局面に突入している。2030年には160万人の死者数に上り、その後も数十年間にわたって死者優位の時代が続くとみられる。
死者が増えれば、弔いの機会が増える。地域の寺の多くは檀家組織を抱えており、檀家が死亡すれば葬儀を菩提寺に任せることになる。また、葬儀の後は初七日や四十九日、百箇日、一周忌、三回忌、七回忌……そして三十三回忌や五十回忌あたりまで、定期的に法事を実施するのが日本人の慣習になっている。一部に、田舎の墓から都会の永代供養へと移す改葬もみられるが、今のところ限定的である。
葬儀や法事が、一般的な日本の寺院のメイン収入となる。
なかには、「お寺は拝観料や、お守りや御朱印などの収入が多いのでは」と、疑問に思う人がいるかもしれない。だが、拝観料に頼っている寺院は京都や鎌倉などにある、ごく一部の寺院に限られる。寺院が収入のうち、葬儀や法事の宗教儀式が8割以上を占めているといわれている。
では、寺院は年間どれくらいの葬儀や法事を実施しているものなのか。年間葬儀回数は一般的に檀家軒数の6%ほどだ。法事(回忌法要)の実施数は檀家数の3割ほどである。
つまり、100軒の檀家を抱える寺院が1年間に執り行う葬儀はだいたい6件前後。法事の数は30回ほどとなる。住職がサラリーマンなどの副業をもたない専業型寺院の場合、檀家数が少なければ、他の有力寺院に法事の手伝いをするなどして生計を立てるしかない。