ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は「厳しい経営者」といわれる。だが、トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」に触れたとき、「自分はぜんぜん甘い」と感じたという。柳井氏はどこに刺激を受けたのか。『トヨタ物語』(日経BP)を書いたノンフィクション作家の野地秩嘉氏が聞いた――。

※本稿は、野地秩嘉さんのnote「柳井正氏が読み解く「トヨタの強さ」『トヨタ物語』続編連載にあたって 第5回」の一部を再編集したものです。完全版はこちら

記者会見に臨むファーストリテイリングの柳井正会長兼社長
写真=時事通信フォト
記者会見に臨むファーストリテイリングの柳井正会長兼社長=2020年10月15日、東京都千代田区

歴代経営陣は厳しい人たちだった

僕は昔、(トヨタ生産方式を体系化した)大野耐一さんの本『トヨタ生産方式』を買って、読んだことがあるんです。熟読したけれど、何が書いてあるのかよくわからなかった。それが、今回、野地さんの本『トヨタ物語』を読んで、納得しました。大野さんは「オレの本を読んでもわからないのは当たり前だ。中身がわからないように書いてある」と言っている。つまり、トヨタ生産方式は本を読んだだけでは理解できない。

確かに、生産でも販売でも、現場には文字にできない重要なことがいくつもあるんです。働く人間の意識、心構え、チームワーク。そういったものは文字にすることができないし、ビデオに撮ってもわからない。指導者が現場に行って、やって見せて、そして、自分の言葉で伝えなくてはならない。大野さんはそうやってトヨタ生産方式を伝えたのでしょう。

ただし、この本は生産方式を解説する本ではない。ここに書いてあるのはトヨタの本質です。

「この会社は本気なんだ。自分たちの今の成功が明日の失敗になるとわかっている。だからこそ、昨日と同じことをやっていてはいけないと肝に銘じている。徹底した認識と実行こそが企業の未来を作る。それがトヨタの本質なんだ」

厳しい人たちです。(トヨタ創業者の)豊田喜一郎さん、大野耐一さん、厳しい。僕は自分がまだまだ甘いと気づきました。これからはもっと自分にも社員にも厳しく経営していきます。僕はまだ頑張り方が足りなかった。

「お偉いさん」になっちゃいけない

本書を読んでいて気づいたのですが、経営と経営学は別物ですね。トヨタがやっていることは経営です。学問ではない。経営とは企業のあり方そのもの。そして、彼らはつねに変わろうとしている。経営は維持ではありません。変化であり、成長です。

ユニクロも日々、どう変わっていくべきかを考えています。自分の企業だけではなく、社会までを変えていくような商品、サービスを作る。それが心意気であり、使命です。トヨタがすごいのはあれだけの大企業になってもまだその気持ちを持ち続けていることでしょう。

時々、トヨタの経営陣と会う機会があるのですが、みなさん、気さくなんですよ。「お偉いさん」になっている人はいない。普通、大企業になると、経営者ってお偉いさんになってしまうことがある。上から目線で話しかけるんです。トヨタの方々とは気さくに話ができる。

「お偉いさん」になっちゃいけない。横柄な態度を取ったり、自分の主張しかしないような経営幹部、社員のいる会社は間違いなく失敗する。うちではちゃんと注意します。