あらゆる業種の「際」がなくなっている

僕は幸か不幸か、と言っちゃ孫(正義)さんに怒られるけれど、ソフトバンクの社外取締役を16年、やっていました。

これからは情報革命というよりも、社会革命の時代になってきているんです。あらゆるものがコネクティッドされるから商品は変わってきます。

もっともいいのはお客さまが注文した服が工場でたちどころにできて、それがすぐに送られてくること。すでに始まっていますが、僕らはそれをさらに進めていく。サイズも色も、その人が望んだものがすぐにできて、配達されてくる。ズボンのすそ上げなんてこともなくなるでしょう。洋服だけではありません。すべての商品が情報化によって、オーダーに変わる。それを実行できる会社とできない会社があるだけです。

トヨタの自動車だって、オーダーでしょう。自動車でできることですから、あらゆる商品でも可能になる。そういう時代が来るのではなく、もう来ているんです。

だいたい、あらゆる業種の「際」がなくなっている。ユニクロもアマゾンやグーグルと競争しています。トヨタだって同じこと。テスラ、グーグル、アマゾン、ユニクロとの競争ですよ。

トヨタは自動車を作るということではなく、自動車に乗る人にサービスする会社にならないと生き残っていけないのでは。実際、モビリティサービスの会社と言ってますよね。

大企業になっちゃダメだ

我々の業界は在庫でつぶれるんです。僕は仕事を始めた頃から在庫の存在が負担だったし、嫌だった。売れないから在庫が残る。それで、マークダウン(値下げの売価変更)して在庫を処分する。すでに損です。在庫の処分ばかりしていたら、今度は正規の価格の商品が売れなくなる。そうしているうちに会社は立ち行かなくなる。

売れない商品を作ることは罪悪に等しい。買う価値のある商品を作る。それがテーマでした。そして、今やっと会社の体質が強化され、データを蓄積し、情報の使いこなし方がわかってきた。在庫をなくすことは以前から考えていたけれど、やっと実現できるだけの能力が備わってきました。

大企業になっちゃダメですよ。この本にも「昔、トヨタの役員会は怒鳴り合いだった」とありますけれど、伸びていく企業はそうですよ。すべて明確な言葉でストレートに伝える。

僕は「厳しい経営者」と呼ばれています。しかし、豊田喜一郎さん、大野(耐一)さんに比べればぜんぜん甘い。彼らが持っていた危機感を持たなくてはならない。トヨタというベンチャー企業の本質は経営者が危機感を持ち続けていることです。

大競争時代だけれど、ユニクロはトヨタには負けません。僕らは実業の人間だから、実業で結果を出します。(noteマガジン『トヨタ物語 ウーブン・シティへの道』に続く)

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