「反中タカ派」としてのバイデン
「バイデン新政権は中国に対して弱腰になる」という観測が一部にあるようだが、これは正鵠を射たものとはいえない。「中国に弱腰」とみなされること自体、バイデンは避けなければならないからだ。
大統領選挙に臨むにあたって、バイデンは習近平を「悪党」と呼び、中国との対決姿勢を鮮明にした。香港などでの人権問題を念頭に置いたものだが、これはバイデンにとって大きな軌道修正だった。バイデンは長年、中国政府の要人と幅広い人脈を持ち、中国通として知られてきたためだ。
その彼が「反中タカ派」としてイメージチェンジした大きな背景には、香港問題やコロナ禍をきっかけに、アメリカで党派を超えて反中感情がこれまでになく高まっていることがあった。そのうえ、大統領選挙でトランプは「バイデンが当選すればアメリカ人が中国語を学ばなければならなくなる」と述べ、バイデンに「親中」のラベルを貼ろうと躍起になった経緯もある。
冒頭に述べた観測は、このトランプのイメージ戦略に乗ったものだろう。しかし、その善しあしはともかく、政治家として世論に敏感になるのは当然であり、むしろバイデンはトランプ以上に「反中タカ派」にならなければ立場が保てないのである。
結果的に孤立を生んだトランプの対中政策
とはいえ、中国に対抗する手法で、バイデンはトランプと大きく異なるとみられる。そこでまず、トランプの中国との対決について確認しておこう。
トランプ流の外交とは、中国に限らず、相手が誰であれ、いきなり一撃を加えて自分のペースに持ち込もうとするものだ。さらに、根回しもなしに単独で突然アクションを起こすのも大きな特徴だった。それは人目を引く効果も大きかったが、相手に「何をするか分からない」と恐怖を覚えさせるのがトランプ外交の真骨頂といえる。
ただし、これが中国を相手に効果をあげたかは疑問だ。それまでほぼ不問に付されていた問題、例えば中国進出を目指す外国企業に中国当局が技術の公開を求めるといった不公正な慣行をとりあげた点でトランプに功績を認めるとしても、問題はそれが結果的に中国を追い詰められなかったことにある。
その最大の原因は、「アメリカ第一」を掲げるトランプが味方を増やすことに関心をもたず、アメリカ製品の関税引き下げなどを、相手を選ばず一方的に要求するなどしてきたため、多くの国からひんしゅくを買ってきたことにある。
それは結果的に、中国ではなくアメリカが孤立する状況を生み、中国への圧力を中途半端にした。コロナ対策への不満からトランプが世界保健機関(WHO)脱退を宣言したことが、WHOにおける中国の影響力を増す効果しかなかったことは、これを象徴する。
中国の足場を切り崩す
こうしたトランプと比べて、バイデンの手法は対照的なものになるとみられる。一言で言えば、それは中国包囲網を築くことにある。
バイデンは選挙中から「アメリカが世界をリードしなければならない」と強調してきたが、ここからは多くの国を仲間に引き込む方針がうかがえる。その一方で、トランプはWHOや地球温暖化に関するパリ協定から脱退し、国際的な孤立を深めたのに対して、バイデンはこれらに復帰すると明言している。国際的なルールや仕組みに積極的にかかわることは、これらが中国主導になることを防ぐためとみられる。
そのためにバイデンにとって重要な課題の一つとなるのが、途上国とりわけアフリカなどの貧困国の囲い込みだろう。中国は冷戦時代から途上国との関係を重視してきた。国連加盟国の過半数を占める途上国からの支持は、中国が大国として振る舞ううえで欠かせない足場になっている。