ところが、トランプは貧困国に対してもアメリカ製品への関税引き下げを強要しただけでなく、援助額も減らすなど、途上国を囲い込むためのコストをしぶってきた。2月から6月までにトランプ政権がアフリカに提供したコロナ関連の支援が約3億ドルだったのに対して、同じ時期に中国が28億ドル以上を提供したことは、途上国囲い込みレースでのアメリカのビハインドを象徴する。

バイデンは選挙期間中から、援助を外交の柱にする方針を打ち出してきたが、そこには人道的な目的だけでなく、戦略的な目的も見いだせる。つまり、貧困国向けにアメリカ版「マスク外交」などを積極的に展開することは、中国の足場を切り崩すことにつながる。

さらに、バイデンが副大統領候補としてアフリカ系、アジア系のハリス氏を起用したことは、この観点からも理解できる。つまり、ハリス氏の起用はアメリカ国内向けには人種差別的な言動の目立つトランプ氏との違いを鮮明にしたが、国際的にはやはり反人種差別感情の強いアフリカなど途上国との関係修復の一つのステップにもなり得るからだ。

中国包囲の糸口としての香港問題

バイデンが中国包囲網を形成する場合、途上国の囲い込みとともに重要なのが同盟国との関係修復だ。トランプ政権の下で、アメリカ製品の関税引き下げや駐留米軍の経費負担の問題をめぐって同盟国との関係がギクシャクしたことは、アメリカが中国に圧力を加えることを難しくした一因といえる。

また、途上国向けの支援を増やすにしても、同盟国の協力がなければ、大きな効果はあげにくい。そのため、バイデンがかねて同盟国との関係修復を掲げてきたことは不思議ではない。

アメリカとの関係修復には同盟国からの期待も大きい。ヨーロッパ連合(EU)は11月14日、エアバス社製品に対する関税をトランプ政権が約75億ドル引き上げたことへの対抗措置として、ボーイング社製品などへの関税を15%引き上げると発表したが、それと同時に「バイデン政権の下で状況が改善されることを期待する」とも表明している。

2020年11月9日、マンハッタンのタイムズスクエアにはバイデン勝利を祝う広告
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トランプ政権時代、アメリカの多くの同盟国が中国包囲網への参加に及び腰であった背景には、それにともなう経済的リスクだけでなく、アメリカ自身が同盟国の経済的リスクになっていたことがあった。そのため、バイデンにとって同盟国との貿易摩擦を解消することは、中国包囲網の形成に欠かせない条件といえるだろう。

同盟国の協力を取り付けようとするバイデンが、中国包囲網の糸口にするとみられるのが香港問題だ。バイデンはトランプの始めた米中貿易摩擦がアメリカ経済にも悪影響を与えると主張しており、中国が貿易慣行を改めるなどの約束と引き換えに、関税引き上げの措置を取り下げるとみられる。