※本稿は、榎本博明『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)の一部を抜粋・再編集したものです。
自己肯定感は「ほめられて高まる」ものではない
ほめられればだれだって嬉しいし、気分が良いものだ。でも、良い気分にしてもらえば自己肯定感が高まるのだろうか。
ほめられればうれしくて気分は高揚するかもしれないが、そういった一過性の気分の高揚と自己肯定感を混同すべきではない。
自己肯定感というのは、ほめられれば高まり、叱られれば低下するというようなものではなく、もっと安定的なものとみなすべきだろう。
自己肯定感が低い者は、ほめられて一時的に気分が高揚しても、だからといって自己肯定感が高まるわけではなく、自分に対するネガティブな気持ちは変わらない。
一方、自己肯定感が高い者の場合は、叱られて一時的に気分が落ち込んでも、だからといって自己肯定感が低下するわけではなく、すぐに立ち直って、自分に対するポジティブな気持ちは変わらない。
自己肯定感というのは、そういうものなのではないか。
「ほめる」が逆効果になるケースも…
ここで、ほめても自己肯定感が高まるわけではないことの理由を四つあげておきたい。
第一に、ほめられることで守りの姿勢に入り、気持ちが萎縮するということがある。
ほめられることが自信になり、モチベーションも高まり、それが好循環をもたらすと考える人が多いようだが、ほめ方によっては逆効果になることもある。それを実証した実験もある。
心理学者のミューラーとドゥウェックは、10歳〜12歳の子どもたちを対象に、ほめ方によってどのような効果の違いがあるかを調べるための実験を行っている。
まずはじめに知能テストのようなパズル解きのテストを実施した。テスト終了後に、すべての子どもたちは、「優秀な成績だった、少なくとも80%は正解だった」と伝えられた。そのパズルは簡単なものだったので、子どもたちはそのコメントを信じることができた。
その際、子どもたちはつぎの三つの条件に振り分けられた。
②とくに何も言われない
③こんなに成績が良かったのは「一所懸命に頑張ったからだ」と言われる
つまり、条件①の子どもたちと条件③の子どもたちは、それぞれ異なる理由で良い成績が取れたと思い込まされた。これが重要な意味をもつ。