※本稿は、友田明美『最新脳研究でわかった 子どもの脳を傷つける親がやっていること』(SB新書)から抜粋し再編集したものです。
「虐待」よりも広義な行為「マルトリートメント」
マルトリートメント(Maltreatment、以下マルトリ)とは、treatment(扱い)に接頭語のmal(悪い)がついた言葉で、虐待やネグレクトに限らず、「子どもへの避けたいかかわり」を指す総称です。
「虐待」という言葉を聞くと「自分には関係ない」と思ってしまう人が多いですが、実際にはマルトリにまったく無関係な家庭などありません。子どもの脳を傷つける恐れのあるマルトリは、ごく普通の家庭の日常にも潜んでいると言えるでしょう。
「しつけのため」が体罰になることも
私の診察室を訪れる方々を見ていると、子どもをただ痛めつけようとしているわけではないと感じます。子どもを叩いてしまう人の多くは、「この子が社会に出て困らないように、しつけのためにやっている」と言います。それは彼らの本心だとも言えるでしょうが、自身の行為を正当化しているという側面はないでしょうか。
日本では「しつけのために叩くのはやむを得ない」という考えが根強く、大人が子どものお尻や頭を叩くなどの「体罰」が広く行われてきました。身体の痛みを与えることで悪い行動を正し、導こうとする論理です。かつては、布団叩きでお尻を叩くといったことも、「しつけのため」と言って容認されてきたのです。
たとえ「しつけのため」と思っても、身体に痛みや苦痛を与える行為や不快感をもたらす行為は「体罰」に該当します。布団叩きやベルト、定規で叩くなんてとんでもありません。これは通告すべき「身体的マルトリ」です。また、直接的に身体に苦痛を与えなくとも、長時間外に締め出す、立たせておく、正座をさせる、喉が渇いても飲み物を与えないといった間接的に苦痛を与える行為も「体罰」であり、「身体的マルトリ」であることを知っておく必要があります。
もう一つ、身体的マルトリにあたる、やや特殊なケースとして「代理ミュンヒハウゼン症候群」があります。子どもに異物を飲ませるなどして故意に病気にさせたり、子どもが病気であると偽って不要な検査や治療を受けさせたりする行為のことを指します。代理ミュンヒハウゼン症候群は、なかなか発覚しにくい病気です。巧みに計画されていることもあって、医療関係者でさえ見抜くのが難しいのです。「代理ミュンヒハウゼン症候群」という診断名が正式につくかどうかは別として、子どもに不要な検査や投薬、治療を繰り返し行い、結果として子どもを傷つけているのであれば、それは「身体的マルトリ」と言えるでしょう。
□部屋に閉じ込めて外に出られないようにする
□寒い季節に戸外に締め出す
□子どもに反省をさせるために、長時間立たせておいたり、正座をさせておいたりする
□子どもが約束を守れなかったときなど、罰として食事を抜いたり、飲み物を与えなかったりする
□食べ残しは禁止しているため、子どもが「おなかいっぱい」だと言っても無理やり食べさせる
□子どもが体調不良を訴えても無理やり学校や塾に行かせる
□子どもに不要な検査、投薬、治療を繰り返す