平和堂、アークス、ゆめタウンが元気な理由
イオンリテールやイトーヨーカ堂などナショナルチェーンの苦戦が続くなか、地方密着のローカルスーパーが業績好調だ。全国一律のスキームでは対応しきれない消費者ニーズの変化や地域事情に、地元を知る企業が対応力を見せている。北海道のアークス、中国・九州のイズミ(ゆめタウン)などと並び、滋賀県発の平和堂もその代表格だ。株価は年初来高値を更新、堅調な業績を背景に投資家の注目も集めている。ナショナルチェーンがひしめく関西圏でなぜ平和堂は揺るがないのか? その秘密は「滋賀モデル」ともいえる独自の地域密着戦略にあった。
滋賀県内のスーパー市場ではおよそ3割のシェアを握るとされ、地元では「平和堂のない街はない」とまで言われるほど、暮らしに根づいた存在となっている。本社は彦根市。かの「ひこにゃん」で知られる城下町に拠点を置き、まさに地域とともに育ち、地域に支えられてきた企業だ。
滋賀県民の冷蔵庫、クローゼットとして
平和堂は1957年、創業者・夏原平次郎氏が「靴とカバンの店」として出発し、地域の人々の暮らしを支える存在として成長してきた。長男に「平和」と名づけ、店名も「平和堂」としたほど、“平和”と“地域への貢献”を願った人物だった。
現在は滋賀県を中心に、京都、福井、岐阜、愛知、大阪、さらには兵庫、石川、富山にまで店舗網を広げる。人口約140万人の滋賀県内には75店舗(うちアル・プラザ17店舗)を構え、まさに“県民の冷蔵庫・クローゼット”として暮らしの中心に根づいている。2025年現在、全体の店舗数は164。地域密着型チェーンとしては異例の規模を誇る。
ロピアやオーケー、コスモス薬品といった企業が次々と関西圏に進出し、マイカルやダイエーを飲み込んだイオンの存在感が高まるなか、平和堂は「密度」で勝負する。つまり、拡大よりも“信頼の蓄積”を重視し、ドミナント戦略により地域の生活圏を丁寧に囲い込んでいく。滋賀県内では圧倒的なドミナント戦略を敷き、地域住民との信頼関係を積み上げることで、“選ばれ続ける”ポジションを確立している。
イオン、ロピアなどの侵攻を食い止める
2025年2月期の連結業績も堅調だった。営業収益は4449億円(前期比4.6%増)、営業利益133億円(同0.8%増)、経常利益146億円(同1.1%増)、当期純利益は107億円(同58.1%増)と、物価高騰や人件費上昇の逆風のなかでも増収増益を確保。衣料品や住居関連商品の売上回復に加え、直営の食品販売が堅調に推移したことが、利益を押し上げた。
イオンをはじめ2025年2月期の有力小売企業の決算は、消費環境や人手不足を反映して厳しい。その中で平和堂の踏ん張りが目立つ。
好調な勢いは今期も続く。2026年2月期の業績は営業収益4560億円(+2.5%)、営業利益145億円(前期比8.5%)、経常利益156億円(同6.6%)と、過去最高の売上高と最終利益を見込む。配当も年66円(前期63円)への増配を予定。また、資本コストや株価を意識した経営に取り組む姿勢を鮮明にした「ROE8%」を目標とする新たな中期経営ビジョンも市場で好感され、株価は連日で年初来高値を更新。4月初旬には一時2588円をつけた。
第5次中期経営計画(2024~2026年度)において、「子育て世代ニーズ対応による顧客支持の獲得」「ドミナント戦略をベースとしたHOP経済圏の拡大」「生産性改善も含むコスト構造改革の推進」という3つの重点戦略を掲げる。平松正嗣社長は決算発表で、「コロナ後の生活変化に適応するには、地域のくらしをよく見つめ直す必要がある。店は“暮らしの相談窓口”のような存在であるべき」と語った。