琵琶湖より愛をこめて

2020年代以降の地域ブームの流れも追い風だ。滋賀県が舞台になった映画『翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて』が象徴するように、これまで“地味”とされてきた地方都市の独自性が再評価されるなか、「滋賀っていいよね」「地元をもっと大切にしたい」という生活者の地元志向に、平和堂は巧みに寄り添っている。ローカルアイデンティティと消費の融合こそ、「滋賀モデル」の真髄とも言える。

2023年には、彦根市・コクヨ工業滋賀との共同企画で「ひこにゃん野帳」を限定販売し、地元キャラクターとともに親しまれるブランドづくりを進めている。こうした取り組みの積み重ねが、「平和堂=地元の企業」という信頼を築いてきた。

一方で、平和堂の戦略は“守り”だけではない。滋賀というローカルで徹底的に磨き上げたこのモデルは、現在、大阪・愛知・岐阜といった周辺府県に“じわじわと”広がりつつある。滋賀以外への出店では、既存エリアとの物流や人材の連携が可能な範囲に絞り込み、既存ノウハウを生かせる立地に限定するという慎重な戦略を取る。

特に関西市場では、首都圏で台頭するディスカウント業態のオーケーやロピアが出店攻勢をかけており、さらにコスモス薬品やサンドラッグなどのドラッグストアも食品売場を強化し、競争が一段と激化する。

「生活者の隣にいる企業」が勝つ

新規出店にあたっては、現地の生活者のニーズを徹底的に調査し、「平和堂に求められる役割」をゼロベースで検討する。急激な店舗拡大は避け、持続可能なドミナント形成を意識した広がりを重視。まるで“和紙に墨がしみ込む”ように、じわじわと信頼の輪を広げている。

平和堂はあくまでも「地域に必要とされるかどうか」を問う姿勢を貫く。ローカル企業だからこそできること、ローカル企業でなければできないこと。その両方を体現しながら、“地域の信頼”を最強の経営資源へと昇華させている。

全国に同じようなチェーンが並ぶいまだからこそ、「地元の暮らしから選ばれる店」がどれほど貴重な存在であるかを、私たちは見つめ直すべき時に来ている。“地域発”であることに誇りを持ち、過度な規模拡大を追わず、「生活者の隣にいる企業」として着実に進化を遂げる平和堂。日本各地で小売業の再編や撤退が続く中、こうした企業の存在こそが、地域社会の持続可能性にとって希望の光となる。