物価高、人手不足、共働き世帯の増加など、食卓を取り巻く環境が激変する中、小売業界では競争が激化している。そんな中、イオンは新たな成長の起爆剤として冷凍食品に狙いを定めている。流通科学大学の白鳥教授がその裏側に迫った――。
小売業界では競争が激化している。イトーヨーカ堂が店舗閉鎖を進め業績の立て直しを急ぎ、ライフやオーケーといった食品スーパーは個性を打ち出しながら顧客獲得を狙う。一方、業界最大手のイオンリテールも直近の業績数字は決して芳しくない状況だ。そんな中、「トップバリュ」を軸に、プライベートブランド(PB)の冷凍食品を次々と投入し、冷凍食品専門店「@FROZEN(アットフローズン)」を全国展開。食卓の主役を冷凍食品に据える戦略を加速させている。
「冷凍きゅうり、売れてます」
冷凍食品の世界で、にわかには信じがたい現象が起きている。家庭用冷凍野菜のなかで、水分量が多く冷凍には不向きとされていた「きゅうり」が、いまヒット商品となっているのだ。その仕掛け人がイオンだ。
2025年2月、イオンはPB「トップバリュ ベストプライス」から、冷凍スライスきゅうり(250グラム/税込213円)を発売。開発にゴーサインを出したのは、イオントップバリュの土谷美津子社長(イオン副社長)だ。開発担当者にとっては、半ば無茶振りに近いリクエストだったが、急速冷凍技術の進化によって、自然解凍でも歯切れのよさを保てる品質を実現した。
キャベツやハクサイなど野菜の相場高騰が続く。きゅうりも高い。そんななか、「包丁もまな板も要らない」「酢の物にすぐ使える」と主婦層を中心にSNSでも話題となり、発売から1カ月で想定を上回る売れ行き。店舗によっては欠品が続いた。
だが、これは単なる“変わり種”商品ではない。イオンが本気で仕掛ける冷凍食品戦略の象徴であり、その背景には、日本の食品小売における新たな主導権争いが透けて見える。