その一方で、トランプは「香港人権・民主主義法」に基づき、香港政府要人の往来禁止、中国本土と異なる香港の優遇措置の停止、輸出規制などを実施してきたが、バイデンはこれらを不十分と批判しており、往来規制の対象となる要人を増やすなど、これまで以上に香港問題で中国を追い詰めようとする構えだ。それは伝統的に人権問題に熱心な民主党支持者の支持を得やすいだろう。
日本は中国包囲網に加われるか
ただし、バイデンが香港問題を重視することは、日本政府にとって居心地の悪さを覚えさせるものとなる。制裁の効果をあげるためバイデンは同盟国にも協力を求めるだとうが、一方の日本政府は中国に限らず外国の人権問題にかかわらないのが基本方針だからだ。実際、日本政府はこれまで香港問題について、制裁はもちろん批判さえしてこなかった。
日本政府の静けさは、アメリカの同盟国のなかでも際立っている。ヨーロッパ連合(EU)、オーストラリア、カナダなどは、アメリカほど突っ込んだ制裁を行わないまでも、公式に中国政府を批判してきた。これらを中国包囲網に巻き込む場合、バイデンはアメリカとの貿易問題などである程度譲歩し、トランプ政権の下で悪化した同盟国同士の関係改善を進めるとみられる。いわば「アメ」だ。
ところが、日本はバイデンから大きな「アメ」を期待しにくい。なぜなら、安倍前首相の下、日本政府はトランプ政権とつかず離れずでつき合い続け、結果的にアメリカとギクシャクした度合いが最も小さい国のうちの一つだからだ。もともとアメリカとの関係が悪くない以上、バイデンからすればことさら日本を特別扱いする必要はない。
むしろ、日本政府は領土問題を除き、中国ともつかず離れずでつき合い続けてきたが、これに踏ん切りをつけさせるため、バイデンが「ムチ」で臨むことすら想定される。例えば、バイデンは環太平洋パートナーシップ協定(TPP)復帰を否定しているが、その一方でTPPに近い多国間の自由貿易協定を改めて成立させることを提案している。その場合、再交渉の過程でこれまで以上に日本が農業分野などの開放を求められても不思議ではない。
つまり、バイデンの下でアメリカが同盟国対中国の構図をさらに鮮明にした場合、日本政府はこれまでより立場を鮮明にするよう求められることになる。だとすれば、バイデン新政権の誕生は日本政府にとって、これまでよりかじ取りが難しくなることをも意味するのである。