「他人の責任追及」をしているヒマはない
「日本人は危機が来ると、現状をどう改善するかより先に自らの責任回避と他人の責任追及を始める」
これは『日本人とインド人』著者、グルチャラン・ダスの言葉だ。彼は作家でありながらP&GインディアのCEOを務めたビジネスマンで、同国に進出しているスズキ会長、鈴木修も認める人物である。
ダスが指摘した日本人の行動は新型コロナウイルスが蔓延している現在でも変わっていない。それぞれがそれぞれの立場で他人の責任を追及している。
「政治家が悪い。無能だ。2割の歳費削減は甘い」「マスクや消毒薬が店頭にない。ふざけるな」「トイレットペーパーを買い占めるやつは死刑だ」「国会議員が危機のさなかに風俗パブだと! 許せん、●●タマ引っこ抜いてやれ」「番組司会アナウンサーのくせにコロナに感染しやがって、不届き者め」「補償が少ない。スピードが遅い」「若いやつは出歩かないで、うちで自粛してろ」「学校が休みだからといってゲームばかりするな、バカタレ」……。
新聞、テレビ、インターネットに載るニュースのほとんどは他人の責任追及だ。自分のことはさておいて、他人の不埒さを見過ごすわけにはいかんというのが、今の民意だろう。そんな殺伐とした世の中なのに、自分のことよりも、戦いの最前線に立つ医療従事者、そして、コロナ危機の影響を受けている弱者を助けようと行動を起こしている人たちがいる。
それが疲弊している医療現場を注視し、支援しようとしている人たちだ。
それくらい、今の医療現場は過酷だ。なんといっても指定感染症の新型コロナウイルスに対する診療報酬は安い。感染者や感染リスクのある患者を外来で診療しても1件3000円の上乗せにしかならない。安倍晋三首相が4月17日に「診療報酬を倍増」と明言したけれど、すぐに実行するのは難しいのではないか。
医師、看護師はたとえば新型コロナ患者・疑い患者から検体を採取する際には、サージカルマスク、ゴーグルまたはフェイスシールド、ガウン、手袋を着用する。むろん個々の装備には経費がかかる。また、家族がいる医師、看護師は感染させる恐れがあるから、自宅に戻らず、自費で病院近くのビジネスホテルに泊まる人も多い。医療従事者はぎりぎりの状態で働いているわけだ。旅行、飲食業界をはじめとするさまざまな業界が困窮しているけれど、もっとも支援しなくてはいけないのはやはり医療現場ではないか。