トヨタはこんな発表をしている。
「コロナ危機のなか、新型コロナウイルス感染症で闘病中の方、日夜奮闘されている医療従事者・政府・自治体関係者の皆様に対して、何か貢献できないかとの思いから、トヨタグループが力を合わせて取り組む支援活動の総称を『ココロハコブプロジェクト』といたしました」
プロジェクトの名称は東日本大震災の時と同じだ。同じ名称にしたのは、いちばん弱い立場の人たちのために、息の長い支援をすると腹をくくったからであり、支援の後の復興も視野に入れているということだろう。
高倉健が椅子をすすめた“最前線の人”
今、思い出してみると、「いちばん弱い人たちのために」が身についていたのが高倉健さんだった。わたしは亡くなった志村けんさんも出演した映画『鉄道員(ぽっぽや)』のロケ現場で、ある光景を見た。
高倉さんは初めての映画出演になる志村さんを気遣い、前夜、志村さんの留守番電話にメッセージを吹き込んだ。出演シーンでは、じっと演技を見つめていた。ロケの終了後には用意してあった大きな花束を手渡して「お疲れさま、写真を撮りましょう」と肩を並べた。それくらい、志村さんのことを考えていた。
だが、高倉健が見つめていたのは志村さんではなかった。共演していたスターでもなければ監督でもなかった。彼の視線の先にいたのは……。
彼は撮影中、絶対に椅子に座らない。撮影が長引いて、深夜になっても座らない。自分も座らないし、他人にも椅子をすすめない。ところが、厳寒のロケ地で、彼はある3人のことが気になった。自らパイプ椅子を広げて、「お疲れでしょう。あなた方は座って休んでいてください」と言ったのである。
相手はエキストラの女性2人と志村さんの息子役の小学生だった。
子役を椅子に座らせてから、話しかけた。
「撮影、長引いて悪かったな。もうすぐ終わるぞ。そしたらおじさんが寿司をおごってやる。それともステーキがいいか? 両方でもいいんだぞ」
コロナの時代にわたしたちがやることとは最前線に立つ人、いちばん弱い立場にいる人をできる限り応援、支援することだ。ここに挙げた人たちのように、弱い立場にいる人たちを見つめる。そして、危機が落ち着いたらフルスロットルで働く。
人は他人のために行動を起こすとき、もっとも力が出る。