これに関してトヨタ広報は次のように補足した。
「社長の豊田はコロナ危機に際してふたつのことを決めています。ひとつは喫緊の問題である医療の現場を支援すること。最前線で戦っている人たちのためにできることをやりたい。もうひとつは震災でもそうでしたけれど、危機のときに必要なのは事業をやり続けることだ、と。自動車産業は波及効果が大きい産業です。働く人も多い、部品会社も多い、その周りのサービス産業の人たちも大勢います。みんなの生活を守るためには事業を継続する。そして、工場が動く音、日常の音がみんなを元気にすると言っています。危機のとき、日本に貢献するために当社は国内に生産拠点を残してきました。ですから、マスク、フェイスシールドといったものなら作ることはできます」
わたしはトヨタグループが作ったマスクを試着してみた。肌ざわりは多少ゴワゴワしていたが、繊維層は3層だ。着け心地よりも機能性を重んじたそれである。聞けば車のフィルター素材を利用したとのこと。
実はトヨタには人工呼吸器についても「なんとかできないか」という声が寄せられていたという。しかし、同社は直接の製造ではなく、製造現場のカイゼンという側面からの支援に決めた。それは次のような理由からだ。
「人工呼吸器は人の命に直結する医療器具です。自動車も人命に関わる製品ですので、命に関わるモノづくりが、どれだけ難しいかを我々は理解しています。簡単なことではありません。まずは、医療機器を作っている方々のところに行き、その生産をひとつでも増やせるような、生産工程の改善など、我々のノウハウが活かせるサポートを始めてまいります」(豊田章男)
加えて、病室用ベッドの部品などの製作も始まっている。
東日本大震災への支援を振り返る
自動車業界は日本の基幹産業だ。前述のように波及効果は大きい。それはコロナ危機以前に行った東日本大震災への支援と結果を見ればわかる。
彼らは2011年から9年間、息の長い支援を行い、東北地方に重点投資をした。その結果、当時は500億円だった東北地方の自動車の出荷額は現在、16倍の8000億円に増えている。また、東北に立地する部品メーカーなどサプライヤー企業の数は約100社から170社となった。さらに、人口が流出することが多い地方であるのに、就業人口を3000人、増やすことができた。