IT革命の“申し子”コムトラックス

ITを駆使すると、ここまで製造業のあり方が変わるのかという典型例が、国内建設機械最大手のコマツが開発した「KOMTRAX(コムトラックス)」と呼ばれる機械稼働管理システムである。建機に通信機器や全地球測位システム(GPS)を搭載することで、建機の所有者はパソコンの画面上で車両の位置を確認したり、盗難や故障などの異常を把握することができる。

「北米のサイトから見ていきましょう」と言って、KOMTRAXグローバル推進室の笠原時次室長が、パソコン上で簡単な操作を繰り返す。すると、無数の青い点がまだら模様に散らばる、北米の地図が画面上に映し出された。これらの青い点は、北米における現時点での建機の位置情報を表している。

「では、もっと場所を絞り込んでみます」

「コムトラックスを使えば世界の建機の作業効率がわかります」(笠原時次室長)
「コムトラックスを使えば世界の建機の作業効率がわかります」(笠原時次室長)

笠原が操作を続けると、ニューヨーク州の周辺が拡大され、さらにマンハッタンが大映しになる。そこをさらに拡大していくと、道の1本1本、五番街の一角に置かれた油圧ショベルの位置情報までが浮かび上がった。いや、これだけで驚いていてはいけない。コムトラックスの情報収集能力の凄さはむしろここから先にあって、建機1台1台の稼働状況がすべて数字やグラフで示される。

例えば、エンジンをかけた時間と、実際の作業時間の記録も把握できる。1台の建機に焦点を絞り、その動きを確認すると、ある1日で「エンジンをかけた時間7.7時間」「作業した時間2.3時間」という結果が出た。つまり、この作業者は5時間以上も、何らかの理由で建機をアイドリングの状態にしておいたことがひと目で明らかになる。

「これらの蓄積されたデータをどう活用するか、もっと言えば、業務改革にどうつなげていくか。現場の見える化をして、それをいかに開発、生産にまで直結できるかがコムトラックスの最大の使命なのです」と笠原は話す。

IT革命の“申し子”ともいえるコムトラックス、コマツが国内で標準装備を開始したのは2001年8月。04年に中国、06年に北米と欧州、07年にオーストラリアで標準装備を開始し、最近は東南アジアでの運用も始まっている。

市場の拡大に伴い、コムトラックスを搭載した建機は08年5月末現在、全世界で10万台の大台を突破した。建機の耐用年数を20年とみて、現在世界で稼働しているコマツの建機はざっと100万台と予想されるが、このうち10%程度に標準装備された計算になる。

「代理店やお客様の活動を支援する場ができたということで、競合メーカーに比べてうちは圧倒的に先をいっていると思います。他社のシステムを見る限り、お客様が本当に使えるようなメニューは用意されていませんし、導入状況も画面の機能も含めて、彼らはうちの3~4年前の状況ではないでしょうか」

笠原の指摘そのままに、コマツがいち早く標準装備を実現したのに対し、世界の巨人といわれる米キャタピラーは同種のシステムを、今年1月から米国と欧州で、オプション扱いから段階的に標準装備に切り替え始めたばかりだ。