「敵の敵は味方」のアライアンス戦略

コマツ執行役員エンジン・油機事業本部長と小山工場長を兼務する上野充は、コマツとカミンズとの蜜月ぶりを次のように説明した。

「カミンズ社へのエンジンの外販ビジネスが非常に伸びている」(上野充工場長)と語るように、コマツ製のエンジンの品質には高い自信をみせる。

「カミンズ社へのエンジンの外販ビジネスが非常に伸びている」(上野充工場長)と語るように、コマツ製のエンジンの品質には高い自信をみせる。

「エンジンの生産台数では、今年度は10万台乗せが確実の状況です。業績の底だった02年度が2万8000台ですからこの6年で3倍以上に増える予定。とくにマイニング(鉱山開発)向けの中大型エンジンは需要が逼迫していて、今年度に新たな生産ラインを建設する方向で検討中です。小型から中型、大型までエンジンの品揃えがすべて整うのは、キャタピラーとうちの陣営のみといっても過言ではなく、カミンズ社との提携は極めて大きなシナジー効果を生んでいます」

上野は、「設計面では排ガス規制に対する開発コストを抑えられるメリットがある」と言葉を継ぎ、第4次排ガス規制に取り組むシナジー効果にも言及した。

06年に始まった第3次規制に比べ、第4次の規制値は格段に厳しい。低燃費の追求はもちろん、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)の大幅な削減が求められ、規制値のハードルをクリアするために巨額な開発費と優れた人材の投入が不可欠である。カミンズと組むことで、キャタピラーとの戦いを有利に進めようというのが、コマツのしたたかな戦略でもある。米国市場でキャタピラーとカミンズは宿敵のライバルと見られているが、まさに「敵の敵は味方」という発想に根差したコマツのアライアンス戦略は、グローバルな競争時代を生き抜く1つの生活の知恵といっていい。

執行役員エンジン・油機事業本部長兼小山工場長 上野充

執行役員エンジン・油機事業本部長兼小山工場長 上野充

実は、規制値の要求基準が次々に引き上げられる中で、「IT」がディーゼルエンジン生産の重要なカギを握っている。上野は「エンジンのアーキテクチャーはカミンズ、つまり本棚はカミンズが用意し、そこに本を入れるのはコマツ」と話すが、燃料の噴射量や速度、燃焼後の煤などを制御するソフトウエアの開発がエンジンの死命を制するのだ。

なかでも、燃焼とともに堆積する煤をどう燃やしていくかという、DPFと呼ばれるフィルターの制御には極めて高度な技術が求められる。そのDPF制御のためのソフト開発が他社との差別化に欠かせない独自技術であり、コマツは小山工場内にあるIPA・油機開発センタで最後の調整を急いでいる。すでに第4次規制向けディーゼルエンジンの車載テストを終了しているそうで、上野は3年後の規制導入に強い自信を示した。