気になる実現の時期は「わからない」と言葉を濁したが、恐らく野路の頭の中ではコムトラックスから得られるデータが生産計画に反映され、それがグローバル部品表に連動して世界中で同時進行のモノづくりが進められる姿が焦点を結び始めているのだろう。要するに、「在庫ゼロ」を実現する製造業の究極の理想形が、である。とはいえ、それまでには時間がかかるであろうし、当面は世界の巨人、キャタピラーとの熾烈な戦いが続くのは避けられない。現在のコマツの体力をもって、キャタピラーという存在をどう見ているか、ずばり野路に尋ねた。
「世界初のハイブリッド油圧ショベルも彼らより先に出していますし、いわゆるダントツ商品をはじめとして、かなり先行して技術開発をやれる力はついてきたなと思います。この点はもう、お客さんが評価するわけで、われわれが評価するというよりも見てもらえばわかる。常々、社内でわれわれが言っているのは、商品以外はそんなに(キャタピラーを)意識していない。ここ4、5年、彼らに対してどうしよう、こうしようということはもう、ほとんどやっていないんです」
そこには、再び上昇気流に乗り始めたコマツ流経営に対する強烈な自負が見え隠れする。だが、キャタピラーというマーケットリーダーの“傘の下”で、彼らの陰に隠れながらコマツが利益率を高めてきたのも事実である。今後、新興国での販売シェアで世界の巨人を突き放し、新たな販路を開拓していこうとするコマツが建機業界で真のリーダーになれるか、無人の荒野を切り拓く本当の実力が試されるのはこれからだ。 (文中敬称略)
(川本聖哉、永野一晃、鶴田孝介=撮影)