加賀100万石の産業クラスター
ホイールローダーの組み立てを見せてもらった。ラインでは一人ひとりの担当が決まっていて、フレームにトランスミッションやエンジンを取りつけた後、運転席、足回りの順で作業が進められる。このラインで5トンから32トンまで55機種のホイールローダーがつくられる、多品種少量生産の組み立てラインである。
ラインが進むにつれてどんどん機械らしくなってくるが、1日の生産台数は30台程度にすぎない。トヨタやホンダなど自動車の組み立てラインを見慣れた目には、あまりにゆったりとしたラインの流れに違和感さえ覚える。
工場を案内してくれた高橋良定執行役員粟津工場長(4月1日付で執行役員大阪工場長に異動)は、「クルマは1分に1台、建機は16分に1台ですから、印象がまったく違います」と述べ、ラインの高稼働化をこう話した。
「国内市場は公共投資減少の影響で大きな波をかぶりましたが、エネルギーや素材需要の世界的な高まりで、新興国向けを中心に石炭や銅、鉄鉱石など鉱山開発用の建機が順調に伸びています。工場設備に余力のあったこの工場に鉱山関係の建機を移管したこともありますが、協力企業の集積地としての“懐の深さ”が絶妙の相乗効果を生んで、急激な生産増に十分対応することができました」
隣には、基幹部品であるトランスミッションの組立工場が2棟並んでいる。07年10月に稼働を開始したばかりの第2工場を見たが、自動車の何倍もある超大型部品がセル生産とライン生産の併用方式で、こちらもゆったりと流れていた。
トランスミッションはエンジンと並ぶコアの部品だけに、機械加工、熱処理、プレスなどあらゆる技術の粋が要求される。そこに日本企業の競争力の源泉があるとの認識から、決して技術流出させてはならないという強い決意を示すように、高橋はやや語気を強めて語った。
「キーコンポーネント(基幹部品)のイノベーションを徹底して追求した結果、トランスミッションの重量はこの10年でほぼ半分になりました。すべての技術力を結集した成果です。それだけにアジアの企業には真似できませんし、技術流出を防ぐため日本でしかつくらないようにしています。よく“部品をばらせば真似できるのではないか”と聞かれますが、熱処理などの加工技術や乗り心地を決める制御技術といった最重要の部分は、完全にブラックボックス化しているので、真似ようとしてもまったく同じものをつくることは不可能だと思います」
「基幹部品は日本でしかつくらない」と高橋は明言したが、小松市周辺にはそれを支える企業群が密集していることも確かだ。産業クラスターという視点でとらえれば、愛知県・三河地区に協力企業が集まるトヨタ自動車に似て、コマツのそれも「加賀100万石」で知られるここ南加賀地区にひとつの固まりを形成している。(文中敬称略)