ITという鎧をまとった高収益企業

コムトラックスの使い方を初めて見せてもらったとき、正直言ってダンプトラックやブルドーザーを製造する、いわゆるオールドエコノミー企業であるコマツとのイメージのギャップがすぐには埋まらなかった。しかし、この会社の取材を少しずつ進めるうち、このオールドエコノミー型ローテク産業を、いかにITでハイテク武装しているかにいやでも気づかされることになる。

その結果が、「日経プリズム」の優良企業ランキングで2年連続首位の快挙につながった。同時に、有力企業40社に対するプレジデント誌の緊急アンケート調査(08年5月19日号)で、注目銘柄の1位に何と8人の経営トップがコマツを挙げ、ダントツの首位に輝いている。高い評価を受けるコマツだが、まずは08年3月期連結決算の業績から見ていこう。信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題を機に景気減速感の強まる米国市場向けが落ち込んだものの、牽引役の中国、ロシアなど新興国向け需要の好調で、引き続き増収増益を確保した。売上高は前期比18.5%増の2兆2430億円となり、5期連続で最高を更新、営業利益も同36%増の3328億円と、4期連続の最高益更新を実現している。

09年3月期も新興国の旺盛な需要に支えられて、円高や原材料費上昇などの影響を吸収し、増収増益を維持する見通しだ。鋼材価格の上昇は製品値上げで補うほか、円高に伴う約430億円の減益要因も増収効果で吸収する。好決算だが、建機業界に詳しい野村証券の斎藤克史アナリスト(企業調査部シニアダイレクター)は「強さばかりが見えて、死角が見当たらない」と前置きし、コマツとキャタピラーとの利益率を比較してみせた。

この場合の利益率は、建機事業に関する売上高営業利益率を指すが、コマツは11.1%(05年)、14.1%(06年)、16%(07年)と右肩上がりで推移する。それに対してキャタピラーは10.6%(05年)、11.6%(06年)、9.7%(07年)と10%前後で推移。サブプライムローンの影響か、08年1~3月期は8.3%まで減少した。利益率ではコマツがキャタピラーを凌駕しつつある。

地域別売上高(建設・鉱山機械)/コマツ売上高・利益率/売上高伸び率(建設・鉱山機械)

地域別売上高(建設・鉱山機械)/コマツ売上高・利益率/売上高伸び率(建設・鉱山機械)


その要因を斎藤はこう分析する。

「ITを駆使して企業のビジネスモデルを変えようとしていることが大きい。つまり、顧客―販売代理店―生産現場の情報の流れをよりコンパクトにし、顧客の情報が代理店を経由して工場にスムーズに入るようにしたからです。その結果、生産が平準化され、代理店が在庫を持たないで済むシステムをつくり上げたことが好収益を生んでいるのだと思います」

コマツ粟津工場のホイールローダーの生産ライン。フル稼働の生産現場はまさに”つくっただけ売れる”活況ぶり。

コマツ粟津工場のホイールローダーの生産ライン。フル稼働の生産現場はまさに”つくっただけ売れる”活況ぶり。

旧来のオールドエコノミーの段階でとどまっていれば、コマツの今日の発展はなかった。そこにITというハイテクの鎧をまとったからこそ高収益企業に脱皮できたのであり、その現状をコマツ創業の地にある国内の主要生産拠点・粟津工場(石川県小松市)から紹介しよう。ここで生産しているのは、ブルドーザー、ホイールローダー、中・小型の油圧ショベルに加え、基幹部品のトランスミッション(変速機)などである。この工場の特徴は、単に生産、組み立ての機能だけでなく、開発・設計からテスト走行まで、モノづくりの上流から下流への工程がすべて同じ敷地内に置かれている点にある。

近年、アジア諸国への技術流出を防ぐ狙いから製造業の国内回帰が顕著になり、国内の工場では「開発と生産の連携強化」が重要なスローガンになっている。コマツは粟津工場など、国内の主要生産拠点を「マザー工場」と位置づけ、ここを中核として周辺に集積する多くの協力企業や海外拠点との連携を一層密にすることを狙っている。