第2次世界大戦でドイツ軍は、陸軍大国フランスが築いた大要塞「マジノ線」を難なく無力化した。現代史家の大木毅氏は「戦線中央部のアルデンヌ森林にマジノ線は延びていない。そこを迅速に突破して連合軍を分断、撃破する計画を実行したのが、戦車将軍グデーリアンだった」という――。
※本稿は、大木毅『戦車将軍 グデーリアン』(角川新書)の一部を再編集したものです。
ナチス・ドイツのフランス侵攻作戦の骨子
ドイツによるベネルクス三国ならびにフランスへの侵攻作戦、秘匿名称「黄号」の企図は、端的にいえば中央突破にあったといえる。
フランスは、1929年以来、膨大な予算をつぎこんで、ドイツとの国境地帯に要塞線を築いてきた。有名な「マジノ線」である。
このドイツ側からみて左翼の正面を攻撃すれば、第1次世界大戦の陣地戦の二の舞いになるのは眼にみえている。
さりとて、右翼を強化して、ベルギー・オランダに開進し、英仏海峡地域に進撃すれば、連合軍の主力と激突し、停止を余儀なくされるのは必至だった。
だが、戦線中央部にあたるアルデンヌ森林には、マジノ線も延びてはいない。そこを迅速に突破して連合軍を分断、各個撃破するというのが、「黄号」作戦の骨子であった。
しかも、連合軍は、ドイツ軍は右翼に重点を置いて攻勢に出てくるだろうと考え、その場合には主力をオランダに進出させるという計画を立てていたから、アルデンヌから英仏海峡沿岸諸港への突進は、彼らの裏をかくことになる。