整理整頓ができない、散財してしまう、段取りが悪い……。それらの症状は「発達障害」かもしれない。専門医の榊原洋一氏は、「特に女性の注意欠陥多動性障害は気づかれにくい。治療が手遅れになると、うつなどの二次障害につながるおそれもある」という。「子どもの発達障害の誤診」に警鐘を鳴らす専門医が、現場の知られざる真実を伝える——。

※本稿は、榊原洋一『子どもの発達障害 誤診の危機』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

寝室の床に座って一人で落ち込んでいる女性
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発達障害の「常識」が変わりつつある

発達障害は、圧倒的に男性に多い障害である、というのがこれまでの常識でした。男性に多いという点は、現在でもその通りですが、圧倒的にという形容詞ははずさなくてはいけないことがわかってきています。

男性が圧倒的に多いという常識に大きな変化があったのが、発達障害の中でも注意欠陥多動性障害(ADHD)です。1994年に出版されたDSM-Ⅳ(『精神障害の診断と統計マニュアル 第4版』)では、注意欠陥多動性障害の有病率の男女比は、研究者によってばらつきがあるものの、2対1~9対1と圧倒的に男児に多いことが示されています。

ところが、DSM-Ⅳから18年後に改訂されたDSM-5(『精神障害の診断と統計マニュアル 第5版』)では、その比率は2対1まで低下し、さらに成人では1.6対1とますます男女比が少なくなっているのです。さらに研究者によっては、成人では有病率の男女差はない、とまで言い切る人もあるくらいです。

女性の注意欠陥多動性障害についての社会的認知が進んだのは、アメリカで大ベストセラーになり、2000年に日本にも翻訳されて紹介された『片づけられない女たち』(サリ・ソルデン著、ニキ・リンコ訳/WAVE出版/2000年)という本です。