なぜ女性の「ADHD」は気づかれにくいのか

もちろんそれ以前から女児(女性)にも注意欠陥多動性障害はあることはわかっていました。ただ女児では、多動や衝動性などの症状が目立たなく、頻度も男児よりずっと少ないと思われていました。

さらに当時は、注意欠陥多動性障害は子どもの障害であり、思春期を過ぎると症状が軽快ないしは治癒すると思われていたのです。ですから、注意欠陥多動性障害によって「片づけられない女たち」がいることは社会的に広まったものの、数少ない女児でさらに大人になっても症状が続いている特異な例と考えられたのではないでしょうか。

ところが現在明らかになったことは、女性の注意欠陥多動性障害は男性に比べて「格段に少ない」のではなく、子どもでは男子の約半分の有病率であり、大人になると男性成人の約3分の2の有病率(男女比で1.6対1)と、決して希なものではないことがわかったのです。

決して希ではない女性の注意欠陥多動性障害には、男性にはない、大きな特徴があります。

まず、注意欠陥多動性障害の症状に気づかれず、適切な対応や治療が行われることが少ないことです。

気づかれにくい理由はいくつかあります。一つは、男性と異なり、多動や衝動性の症状が少なく、不注意症状が優位であるということです。

「ぼーっとしている」だけだから周囲も気づかない

注意欠陥多動性障害の男児の多くは、席についていられない、走り回る、お喋りなどの多動行動が多く、親や教師から気づかれやすいのです。ところが注意欠陥多動性障害の女性(児)は、多動行動が少ないために、周囲は気がつきません。

アメリカの注意欠陥多動性障害の教科書には、この障害の子どもの特徴をわかりやすく言うと、男児は「考える前に行動してしまう」、女児は「ぼーっとしている(dreamy)」と書かれています。女児の場合は、教室などで動き回りお喋りな男児と異なり、静かに「目立たずぼーっとしている」ことが多いのです。

もう一つの理由は、親や教師のみならず、専門家(医師、心理士)の間に、注意欠陥多動性障害は、圧倒的に男児に多い障害であるという認識がいわば「常識」として定着していることです。

静かにしている注意欠陥多動性障害の女児にはなかなか気づかないのです。子どもの注意欠陥多動性障害の行動特徴に気づき、医師などの専門家に相談して診断がつくきっかけは、親自身が気がつくこともありますが、その多くは保育士や教師による気づきです。女児の注意欠陥多動性障害は、多動と衝動性の強い男児の障害であるという「常識」を持つ保育士や教師の目からこぼれ落ちてしまうのです。