注意欠陥多動性障害で苦しむ40代女性の例

注意欠陥多動性障害の大人の女性の体験談を次に示します。この障害のある大人の女性の人生の困難さがわかると思います。

M・Yさん 40代
M・Yさんは、私が大人の注意欠陥多動性障害として治療している夫の勧めで、私の外来に来られました。不注意や衝動性などの症状があり、注意欠陥多動性障害の診断基準を満たしていましたが、現在の悩みは長年のうつが治らないことでした。心療内科で双極性障害(躁うつ病)と診断され、多数の抗うつ薬を処方されているが、治らないと悩んでおられました。

子ども時代を振り返ると次のようなことで悩んでいたそうです。

・整理整頓ができない。
・宿題や母親の手伝いを先延ばししてしまう。
・歩く時に周囲に気を取られて、人や物によくぶつかる。
・ものを丁寧に扱えず、食器を割ったりドアをばたんと閉めてしまう。
・とにかく物をよくなくす。

こうした行動特徴があったために、母親から厳しく叱られることが多かったそうです。

学校生活では、

・板書を書き写しながら先生の話が聞けない。
・授業に集中できず、ノートや机に落書きをしていた。
・授業中に挙手して発言するのが苦手。
・教科書などを学校に持ってくるのをよく忘れた。
・自己肯定感が低く、よくいじめられ、腹痛や下痢などの自律神経失調症になった。
・運動は得意で、男子とともに雲梯の上を速く歩いたり、階段の何段上から飛び下りられるか男子と競ったりした。

社会に出てからうつ状態になり退職

大人になってから職場では、

・17年間教員をしていたが、仕事の優先順位がわからず、段取りが悪いため、いつも締め切りや授業準備に追われていた。
・事務的な書類作成が苦手で、いつも事務職員の方に横に付いていてもらわなければできなかった。

などの困難があり、16年目にうつ状態になり退職しました。

家庭では、

・整理整頓ができず、家は散らかし放題。
・必要以上に買い物をしてしまい、物が収まらない。本や衣服で散財してしまう。
・聞きながらメモをとることができないため、電話対応ができない。
・規則正しい生活ができず、活動のスイッチがなかなか入らない。
・物をよくなくす。

このように、大人の注意欠陥多動性障害による困難症状がすべてそろっているような状態でした。うつや双極性障害は、注意欠陥多動性障害の二次障害である可能性もあったために、すぐに薬(コンサータ)による治療を開始しました。

1カ月後私の外来を再受診したM・Yさんから、うれしい報告がありました。薬(コンサータ)を飲んでから、自分の注意欠陥多動性障害としての特性がわかるようになり、自己肯定感が向上しただけでなく、自分の特性に合わせた計画をたてて日常生活を送れるようになった、というのです。さらに、うつの症状が軽快し、3種類服用していたうつの薬を減らすことができたというのです。