女の子には「3つの縛り」がある

さらには、女性が男性よりも総じて自己管理能力あるいは対処スキル(coping skills)が高いことです。身だしなみや持ち物について、女性は生来男性よりも気を配る習慣がついています。女児は男児よりも、自分の見かけ(ルックス)によって自己肯定感を高める傾向が強いことが、心理学的研究によって明らかにされています。これは、女児が本来持っている行動特質というより、生まれた時から女児に対して存在する社会的期待によるものでしょう。

女性の高い自己管理能力に由来する、不得手なことを人に知られずに克服しようという気持ちによって、不注意などの特徴が周囲から気づかれにくいのです。

アメリカの研究者は、こうした特徴のために注意欠陥多動性障害の女性は、「気づかれず、診断されることが少なく、その結果治療されることが少ない(under recognized, under-diagnosed, and under-treated)」と断じています。

アメリカのステファン・ヒンショーによれば、女児は子ども時代から「3つの縛り(triple bind)」の中で生きてゆくように求められていると言います。

3つの縛りとは、①女の子らしく「可愛かわいく」「他人に優しく」「礼儀正しく」すること。②同時に、(男の子のように)「他者に負けず」「やる気を持ち」「人を楽しませ」「運動能力も優れている」こと。③そして、さらに①や②の行動を「さりげなく」こなすこと、です。

社会の圧力によって二次障害につながっていく

有名なテレビコマーシャルに「腕白わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」というのがありましたが、画面に登場するのは男の子であり、男児に向かって述べられた言葉です。このコマーシャルにあるように、男児であれば多少は乱暴で身だしなみが乱れていても許容する社会的雰囲気の中で、注意欠陥多動性障害の男の子の行動は大目に見てもらえる可能性があります。しかし女児の場合は、3つの縛りのように、その行動により厳しい社会的な目があるのです。

こうした社会的風潮の中で、注意欠陥多動性障害の女児は、男児にはない大きなストレスを感じながら生きてゆかなければならないのです。のちにそれが女性の注意欠陥多動性障害に特徴的な二次障害につながってゆきます。

男女共同参画の時代と言われて久しい現在でも、世界経済フォーラムが2018年に発表した世界の男女格差報告で、日本は世界153カ国中121位という地位に甘んじています。妊娠、出産という女性特有のライフイベントだけでなく、子育てにおいても女性に依存するところが大きいのが現実です。

前項で述べた女性に対する社会的期待の上に、さらに妊娠、出産という細かなケアが必要なイベントを乗り越えなければなりません。出産後はさらに、自分自身と子どものケアを同時並行的に行っていかなければなりません。同時並行で複数の作業をする場合には、実行機能の一つである作業記憶をフルに働かせなくてはなりません。しかし、注意欠陥多動性障害を有する人は、作業記憶の機能が不十分なのです。