「症状の浮き沈み」があることも女性特有だ

その後M・Yさんは、旦那さんと一緒に私の外来で治療を続けていますが、本書を執筆している現在、うつの薬はすべてやめることができています。つまり、M・Yさんのうつは、注意欠陥多動性障害の二次障害であったと考えられるのです。

ご紹介した体験の背景には、注意欠陥多動性障害の二次障害が女性でも男性と同じく顕著であるという事実があります。少女期に注意欠陥多動性障害と診断されて成人した女性の様々な実行機能や、二次障害を詳しく調べている研究者もいます。

榊原洋一『子どもの発達障害 誤診の危機』(ポプラ新書)
榊原洋一『子どもの発達障害 誤診の危機』(ポプラ新書)

子ども時代に注意欠陥多動性障害と診断された若い成人女性は、子ども時代から引き続き衝動コントロールや集中力などの実行機能が低いこと、またリスクの高い判断をする傾向が強いことが明らかになっています。自殺企図やリストカットなどの自傷行為の頻度も、定型発達女性に比べて有意に高くなっています。

さらに最近(2018年)ベッサン・ロバーツらは、注意欠陥多動性障害の衝動コントロール不全による症状が、女性の生理サイクルに従って変動することを明らかにしました。

血液中の女性ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の変動に同期して、注意欠陥多動性障害を有する女性の衝動性が、排卵後と月経のあとに高くなることがわかったのです。

こうした性ホルモンの変動は、月経前緊張症候群と呼ばれるイライラ感の亢進こうしんやうつ症状を主徴とする精神疾患として知られています。このように注意欠陥多動性障害の女性には、男性にはない症状の浮き沈みという困難もあるのです。

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