商店街と連携する町おこしタクシー
長い不況下で、企業の先行きは見定め難い。「利益が欲しい」「コストを削りたい」という気持ちは日増しに強くなる。そして、「そもそも、何のためにこのビジネスを始めたのか」という「利の先に立つ義」が忘れられる。あらためて、私たちを勇気づける新旧2つのエピソードを取り上げ、気持ちを新たにしたい。
一つは神戸にあるタクシー会社。数十台のクルマを使って営業する小さい会社だが、営業エリアは広域で、神戸市から周辺都市に及ぶ。だが、その会社はみずからの営業領域を、本社周辺500メートル四方のエリアに置く。
そんな狭い地域で、タクシー会社が生きていけるのか。その社長に聞いてみた。
「売り上げをどんどん大きくするわけにはいきませんが、十分にやっていける」との答え。不思議に思って、どんなビジネスをしているのか聞いた。まず、近くの有力商店街と連携して、その商店街が発行するポイントをそのタクシーで使えるようにした。商店街に買い物に来てポイントを貯めたお客さんは、そのポイントでタクシーを利用できる。
商店街との連携は、新たな連携を生み出す。商店街の近くの病院とも繋がりができ、その病院の通院者を送り迎えする。通院者の診察券を預かり、迎えにいくときにはその前に病院に診察券を出して迎えにいく。同じように、塾とも連携して、家族が子供を迎えにいけないとき、そのタクシーを利用する。こうした事業に、その家族からの厚い信頼が必要なことはいうまでもない。
幼稚園の通園バスも引き受ける。同社は、運転はお手のもの。運転手さんはローテーションで配置できる。一方、幼稚園にとってみれば、自前のバスと運転手というやり方だと、万が一事故が起こったときが怖い。幼稚園の方に言わせると、「プロの信用できる会社に仕事を任せて一安心」となる。