過去の就職氷河期を凌ぐ厳しさと言われる、大学生の就職活動。効果的な対策が打ち出せない中で、注目すべき動きが出てきている、と筆者は説く。
就職難への「対策」はいずれも場当たり的
卒業が近づいてきても就職先の決まらない大学生が今年も多いようである。その数は昨年より多くなりそうで、新記録になるかもしれないと予測されている。ありがたくない新記録である。欧米では卒業後の就職先が決まっていない卒業生が毎年たくさん発生しているが、深刻な問題とは考えられていないようだ。新卒同時採用の慣行がある日本では、新卒で就職が決まらないのは、深刻な問題となる。中途採用となると、就業経験が重視され、就業経験のない新卒未就業者は不利になってしまうからである。正社員への採用をあきらめざるをえない人々も出てくる。「一に雇用、二に雇用」というスローガンを叫んでおられる総理大臣の下、お役所や大学、経済団体も対策に乗り出している。卒業後3年は新卒として扱う、卒業が決まるまで留年を認め、その間の授業料負担は軽減する、就職にたえる基礎的な力をつけるための実践教育を強化する、大学での就職指導をきめ細かく行うなどの対策が提案されているが、そのほとんどは場当たり的な「対策」でしかないものだ。新卒就職・採用の構造的な条件の変化に対応した新しい制度の胎動を感じさせるような動きではない。
そのなかで注目すべき動きを示しているのが、パソナである。就職の決まらなかった学生をパソナが採用して企業に派遣し、企業のお眼鏡にかない、本人もその会社を気に入れば正社員として採用してもらおうという方式である。このパソナ方式は、いわゆる紹介派遣とインターンシップを折衷した制度である。2010年の4月時点では、就職先の決まっていない1370人の卒業生が採用され企業に派遣された。そのうち1200人が就職を決めたという。採用が決まらなかったのは、少数の例外的な事例だけであるという。
私は、この採用率の高さに驚かされた。この仕組みの対象となったのは、就職活動に挫折した人々である。言い換えれば、どの企業からも採用したくないと判断された人々である。逆に見れば、どの企業にも就職したくないと判断した人々でもある。それにもかかわらず、これほど高い採用率になったのは不思議である。
採用率が高くなった理由として第一に考えられるのは、派遣された人々と採用企業側の努力である。派遣されたのは、在学中の就活によって採用先が決められなかったという経験を持った人々だから、採用してもらうことの厳しさ、難しさを痛感している。そのため、採用してもらうためにはかなりがんばったはずである。その努力が採用側の評価につながったのだろう。同じような努力は採用側にもあったはずである。採用側も、十分な数の応募者が集まらなかった会社である。派遣されてきた人々に気に入ってもらうように、仕事と会社の魅力を高めるための努力をしたはずだ。