コミュニティが生まれづらい、都市の人間関係。そんな中、従来とはまったく異なるアプローチで都心に人を集める「大学」がある。新時代を切り開く挑戦として、筆者は注目する。このままでは日本の科学技術は衰退する

キャンパスも校舎も入学金も授業料もなし

社会的なマインドをもった企業が世間で注目を集めている。高度成長期には「生きていくため」にまい進するだけだった社会が、「自分の人生を考え直す」期を経て、「人のために」という期へと、流れとして移っているという話は、なんとなく納得できる話である。とくに阪神・淡路の大震災で多くのボランティアが駆け付けて積極的な住民支援を行ったことは記憶に新しい。そうした流れの中で社会志向の企業が注目を集める。

そのひとつに、ある限定された地域で大学を開設し運営していこうという複数の動きがある。とは言っても、われわれが思うところの大学ではない。キャンパスもなければ、校舎もない。正規の教員もいなければ、入学金も授業料もいらない。そうした学びの場が、東京都心の真ん中に生まれ、1万人を超える人が登録し受講する(水越康介「シブヤ大学における学びと関係性」、左京泰明講演録「シブヤ大学による地域活性化~新しいまちづくり・関係創造の取組~」流通科学研究所リサーチノート)。

毎月第3土曜日の開講日に授業が行われる。事前に受講希望者が募られて、授業の場所が決まる。30人から50人程度であるが、場合によっては100人を超える大きいクラスになることもある。

「まちはキャンパス。誰でも生徒、誰でも先生」という公開講座方式が基本コンセプト。2006年の9月から始まったが、09年末までに400の講座が開かれた。受講生は、女性が多く、年代は20代と30代で70%くらい。だが、区の美術館と一緒にやる焼き物の授業になるとぐっと年齢が上がる。

授業には、表に示すように、街のカフェで行う蓄音機で音楽を聴く、地元の着物屋さんが公民館の和室で行う着付け、お寺での尺八の授業。明治神宮での「森を学ぶ」授業、地元和太鼓チームの授業や地元のボウリング場でのボウリングの授業もある。清掃工場の行政職員による町のゴミのリサイクルの解説もある。クリエーターから芸者さんまで、講師はいろいろ。企業協賛授業もある。DIYの東急ハンズによる自転車の授業。赤ちゃんのためのスキンケアの授業もある。そのときには、託児サービスも提供する。

ゼミもある。たとえば、アサヒビールの社員によるビール醸造の授業は、ゼミとなって継続し、地ビールの開発にまで至った。映画の音声解説サービスのゼミもある。それは、視覚障害者のための映画の主人公の声とは別に音声解説をするサービスだ。ボランティアでやっていた方が授業をやりたいと応募され、授業がスタート。授業の終わりに、「この活動を一緒にやってもらえませんか」と声をかけたところ、10人くらいの人が手を挙げて「音声解説ゼミ」がつくられた。それが最近では、映画配給会社から少しずつ声がかかるようになった。