日本に大きな被害をもたらした、東日本大震災。今後は、経済への二次被害の拡大が懸念される。神戸の震災での教訓や各組織の地方移転が二次被害を抑え、日本復興の道筋をつくる、と筆者は説く。
製造業への影響をどう防ぐか
今回の震災の大きな特徴は、地震と津波がもたらした直接被害だけでなく、その後の二次被害がかなり大きくなりそうなことだ。直接的被害と違って二次被害の最小化は、じっくりと考えて対応する余裕がある。将来につながる戦略的な対応も可能である。
二次被害の中で深刻なのは、製造業への影響である。主要電力供給源の原子力発電所の被災のために、深刻な電力の供給能力不足が起こっている。すでに計画停電が行われているが、一部の製造業では、停電のための設備の休止が深刻な問題を起こしている。そのような工場ではものづくりの再開が難しくなっている。
こうした二次被害の影響の範囲は被災地だけに限らない。部品や資材の供給が不足するために、電機や自動車のアセンブリーメーカーの生産に支障が出てきている。自動車部品や電子部品の供給困難は、その影響が世界中に及んでいる。この供給困難がいつまで続くかわからないが、影響期間も長くなりそうだ。工場を再開できても電力が不足していてはフル生産に入れないからである。それどころか、継続的な生産が担保できないと装置が動かせないという業種もある。
神戸の震災のときには、供給困難が生じた部品は、神戸製鋼がほぼ独占的に供給していたエンジンの弁バネなど少数に限られていた。その後、最終製品メーカーがサプライヤーの選別を進め、部品メーカーも選択と集中を進めたために、一つの企業あるいは工場に供給を依存する程度は、神戸の震災の頃よりも大きくなっている。影響を受ける自動車メーカーの範囲も広くなっている。国内だけでなく世界中の自動車メーカーが生産台数の削減に追い込まれている。たくさんの部品のうち一つが欠けても自動車はつくれないのである。
こうした工場の再開ができないために、生産が落ち込み国全体のGDPが低下する恐れもある。日本での工場復旧をあきらめ、海外に立地する企業も出てくるだろう。それに合わせて部品や材料を手に入れやすい海外への移転を考えるユーザーも出てくるかもしれない。そうなると、日本全体のGDPはさらに低下する。今回の震災が深刻な不況をもたらすと考えている人々は、このマイナス点に注目している。
このような供給不足の最も効果的な解決策は、競争相手による代替供給である。神戸の弁バネのときは、国内の鉄鋼メーカーが手分けして供給を続けた。神戸製鋼はそのために秘密だった製法を公開した。このような解決策をとるに当たって、競争会社に求められるのは、競争相手の不幸を奇貨として顧客を奪おうとはしない節度である。ユーザーにも、代替供給は一時的なものにとどめるという節度が求められる。弁バネの場合は、この節度がほぼ守られた。日本の企業にこのような節度を期待することはできるが、海外の企業にまでそれを期待するのは難しいだろう。今回の二次被害をきっかけに海外の競争相手に市場を奪われてしまう企業も出てくるかもしれない。品質が悪くても、手に入るだけましと顧客が考えるかもしれない。つくっているうちに品質も向上してくるだろう。GDPへのマイナス効果は、中期的にも起こる可能性がある。