金融庁は大阪へ経産省は名古屋へ

二次被害
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二次被害

このような二次被害を最小化するための第一の手段は、電力供給の早急な復活である。そのためには電力会社の努力と工夫が要求されるが、もとの供給力を回復するにはかなりの時間がかかりそうだ。第二の手段は計画停電の方式の工夫である。工場が立地する都市近郊を優先した計画の立案である。しかし、実際に進められているのは、この逆で都心部優先の計画である。そうなってしまう理由もある。工場などの大口顧客との間には電力不足時には供給を制限できるという契約が結ばれているので、切りやすい。大口の需要家である工場への供給を一個所切れば、多くの家庭に供給することができる。不満を局所化できる。第三の、おそらく最も効果的な方法は、需要を減らすことである。移動しやすい電力ユーザーが、関東圏から転地することである。産業セクターで移動しやすいのは、管理間接部門である。その典型ともいえるのは本社部門である。オフィス業務は、極論すれば、パソコンさえ移せば次の日から仕事ができる。どうしても東京にいないと仕事ができないという部署を除いて東京から移転することである。幸運なことに東京に本社を置いている企業は多い。これらの間接部門を移せば、移転の困難な工場を関東圏に残すことができる。経済全体の間接部門に当たる金融業も移動は容易である。すでに外資系の金融機関の中には東京事務所を香港やシンガポールに移したところもある。その付加価値の大きさを考えれば、国内に受け皿を提供すべきである。メガバンクの本社機構も、移転の容易なグループだろう。大阪に旧本社を残しているところもある。銀行ほど容易ではないが、証券取引所も移転を考えるべきだろう。幸運なことに、東京と大阪の取引所の合併が進められている。金融庁も世界の先物取引の発祥の地である大阪に移転してもいい。経済産業省は名古屋に移ることを考えてもいいのではないか。

文部科学省はどうしても東京にある必要があるのか。大学や研究所も同様である。どうしても東京圏に立地しなければならない大学はどこなのだろうか。夏は北海道、冬は沖縄に立地するという大学が出てきてもいい。放送局や新聞社などのマスコミもしかり。一国の間接部門を東京から移転させることによって過剰な一極集中という日本の病弊を解消することができる。疲弊した地方圏の活性化にもつながるだろう。これを機会に、どうしても東京や関東圏に置いておかないと困るという事業所や役所以外は移転するという方針を政府は明示すべきである。そうすることによって二次被害を小さくできるだけではない。東京への一極集中という日本経済の弱点を解消することができる。今回の不幸な出来事を産業の再配置のきっかけにすることができる。

日本の政府には、地方移転のインセンティブを与えるだけの経済的余裕はない。しかし、地方圏は、これからの活性化を期待して、増加する地方税の一部をインセンティブにまわすという発想があってもいい。

このような提案をすると、工場のような付加価値の低い事業場を残して、付加価値の高い事業場を追い出すのはいかがなものかという反論が聞こえてきそうである。東京だけを考えるとそうなるかもしれない。しかし、日本全体を考えるとプラスのほうが大きいはずである。日本の経済は供給過剰と需要不足によるデフレに悩んでいる。今回の震災による生産能力の被害と復興需要で日本経済はデフレから脱却できるのではないかという不謹慎な見方もあるが、二次被害に上手に対応できれば、復活も本物になる。