※本稿は、和田秀樹『患者の壁 [ベルトコンベア医療]には乗るな!』(エイチアンドアイ)の一部を再編集したものです。
「総合診療科」をめぐる不都合な真実
「かかりつけ医は町医者のほうがいい」というのが持論ですが、昔ながらの「いつでも、誰でも、どんな病気でも」診てくれる、昔ながらの「町医者」を探すのは至難の業となってきました。
そんな「町医者」に代わって最近注目されているのが「プライマリ・ケア」です。
プライマリ・ケアとは、日常的な健康問題を臓器別ではなく総合的に診療する医療のこと。風邪や高血圧、ひざ痛、ぎっくり腰などの日常的に起こる症状全般に対応するだけでなく、検査結果や体調の急変などに幅広く対処します。
病院にもこうしたプライマリ・ケアを担う「総合診療科」が増えてきましたが、全体から見ると、まだまだ少数です。プライマリ・ケアを担う医者を「総合診療医」と言いますが、その数は医者全体の2%程度に過ぎません。
実は、この「総合診療科」を名乗る医者にも、問題があるのです。たとえば、大学病院で循環器内科の医者として働いていた人が、開業するときに「総合診療科」を名乗るケースがあります。現在の日本の医師制度では、医師免許さえ持っていれば、「麻酔科」「歯科」以外の診療科であれば標榜できる(名乗れる)のです。子どもを一人も診たことがなくても「小児科」は名乗れますし、眼科医が「婦人科」を標榜することも可能です。
総合診療医の“ふり”をする医者が多い
もちろん、専門でない診療科を掲げて評判が悪かったり、医療ミスが発生したりすれば病院自体が存続できなくなるので、さすがに専門外の診療科は躊躇するのが普通です。
かかりつけ医を探すうえでの問題点としては、昔ながらの「町医者」が減っていることだけでなく、総合診療医の“ふり”をする医者が多いことです。総合診療科はそれほど専門性が高くないと誤解している医者が少なくないため、ほかの診療科と比べて標榜するハードルが低い傾向にあるようです。
総合診療に関する勉強・訓練をしていないにもかかわらず、「総合診療科」を名乗る医者だけが問題ではありません。名乗らないものの、開業した途端に総合診療の“ふり”をする医者が少なくないのです。
たとえば、町の開業医で内科を標榜し「往診もします、小児科もやります」と掲げているクリニックはけっこうあります。しかし、診察室に入ると「循環器内科専門医」の認定証書が貼ってあったりします。大きな病院にいたときは循環器内科医や呼吸器内科医だった医者が、総合診療について学んでいなくても、開業したとたんに総合診療ができる“ふり”をしているわけです。