※本稿は、矢野耕平『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
わが子に「合う」学校など存在しない!?
「合う学校」を探すのではない
わが子に合う学校など実は存在しません。これは職業だって同じ。「自分にとっての天職」など、自分探しの旅をしたところで見つかりやしません。ある職業に就いて、その仕事に懸命に打ち込み、五年、一〇年……もう少しかかるかもしれませんが、徐々にその仕事が「板に付く」。つまり、その人にとって「天職」になるのだと考えます。
「わが子に合う学校」が最初から用意されているわけはなく、先述したように「自分にとって良い学校」とは在校生である当人が自ら作り上げるものです。
そもそも、良い学校・悪い学校なんてものすらありません。偏差値の違いだってあまり関係ないと考えます。万人が満足する学校もなければ、万人に恨まれるような学校もない。どんな学校だって、その学校を誇りに思える在校生・卒業生はたくさんいますし、一方、その学校で過ごした六年間を後悔し、二度と立ち寄りたくない場所になってしまう人だっています。
保護者だってわが子が母校に深い愛着を抱いてほしいと願うことでしょう。そのために、保護者ができることは何でしょうか。
これから志望校を選定するうえで、受験する可能性がほんの少しでもあれば、否定的な見解を軽々しくわが子に言うべきではないと考えます。わが子が小学校六年生になって第一志望校、第二志望校、第三志望校……と受験校のパターンを決めるタイミングであればなおさらそうです
「はじめに」で第一志望校に進学できる子はそうでない子より圧倒的に少数です。わが子が第三志望校、場合によっては第四、第五志望校に進学することだって十分に考えられます。もし進学先に対して親が否定的な言い方、見方をしていると、そういう思いは必ず当人に「呪い」のことばとして伝わってしまいます。だからこそ、受験する学校すべてがあなたにぴったりだと心からわが子に言えることが大切です。
そういう親の後押しを受けてこそ、当人がその学校の色に染まりやすくなるとわたしは考えます。
わが子が何をやりたいかが学校選びの鍵
ここで二児の中学受験を経験したある父親のケースを紹介しましょう。
ある年の春に中学校二年生になった息子は小学生のころ、野球に打ち込んでいました。高校三年生になる姉が中学受験を経験し、女子校に通っていましたから、息子は自分も中学受験をして中高一貫校に通いたいと早い段階で考えていたようです。息子は高校受験に「分断」されることなく野球をしたいと願っていました。本人の希望は校内に野球場があり、かつ、リトルシニアリーグ(中学生の硬式野球リーグ)からの推薦で猛者が集まるような強豪校は避けたいということでした。「夢はプロ野球選手!」などと口にすることは一度もなく、冷静に、客観的に自分の実力を俯瞰するような性格なのですね。
息子が小学校三年生のときに、父親は息子と、息子の所属する少年野球チームの子どもたち二名を伴って、ある男子校の見学に出かけました。その学校は広い敷地を有していて、野球専用グラウンドが完備されているのです。学校の先生の案内もあって、校内はもちろん野球場を見学させてもらい、さらにブルペン(投手の練習スペース)に入れてもらい、息子と友人二名は大興奮。この日、息子は「俺、絶対にこの学校に行く!」と宣言しました。彼にとっては最初に見学した学校だったのです。
結果として、息子はこの学校に合格、進学しました。そして、もちろん野球部に所属しています。ちなみに、一緒に連れていった二名のうち一名の子(息子より二つ年上)もこの学校に進学しました。
驚いたのは、息子は小学校五年生の途中、「あの学校で野球をやりたいから、いまは我慢して少年野球チームをやめて、勉強に専念する」と口にしたことです。父親はもう少し長く少年野球を続けて良いのではないかと考えていましたが、本人の意志は固い様子。
あくまでも一例ではありますが、本人が中高時代に何に取り組みたいかを重要視して学校選びをすると、結果として「わが子に適した学校」を見つけやすくなるのかもしれません。