医療、教育におけるCS概念とは

サービス業でCS(顧客満足)概念が重視され始めたのは1990年頃。ホテル、エアライン、レストラン等々が、その頃こぞってCS調査に取り組み始めた。レストランであれば、お客様は食事が終わった時点で満足度調査シートを渡されサービスを評価する。「味はどうか」「従業員のサービスは」「時間どおりに料理が出てきたか」等々についての質問がある。それに対する顧客からの回答は、以降のサービス改善の手がかりになる。サービス改善が続けば、顧客満足は上がり、その結果、(1)その顧客のリピートを促す、(2)強い関係を維持して販促コストを下げる、(3)評判をつくり上げることも見込まれることになる。

少し遅れて、医療機関や教育機関という非営利組織でもCSへの取り組みが始まった。患者満足度とか学生満足度といった言葉は、最近ではどこの病院、どこの大学からも聞こえてくる。

教育の場合も、先に述べたレストランの場合と同じようなやり方で、CSを通じての教育の質の改善を進めることができる。たとえば、15回の授業が終わったときに、学生にその授業の評価シートを渡して授業評価をしてもらう。「授業で用いた教材は適切であったか」「授業シラバスで言われていた通りに授業が行われたか」等々、細かい評価ポイントがあり、それに沿って評価する。「授業は満足だったか」の質問もある。これらの評点を集計すれば、その授業の学生満足度を測ることができる。そして、学生の授業満足が、どういう要素に影響を受けるのかわかる。

それぞれの授業の評価点は、教員の誰もが見ることができるような形で公開されるのが今では常だ。教員は、その結果を見ながら、「他の授業より点数が低いなあ」「授業が難しすぎたかな」「教材をもうちょっと工夫しないと……」「黒板の字の書き方も考えないと」と、いろいろの反省点を教えられ、次の授業改善に結びつける。

この話だけを拾い上げると、医療機関や教育機関でも、他のホテルやエアラインなどのサービス業と同じように顧客満足度で自身のサービスの質をとらえ改善できると考えてしまいそうだが、そうは問屋が卸さない。

まず第一の問題は、「医療機関や教育機関の顧客は、患者であり学生であるといえるかどうか」だ。たとえば、教育機関においては多くの場合、その教育費用を支払うのは学生当人であることは稀で、両親ないしは家族が支払うのが普通だ。そうすると、教育機関は学生の期待に応えると同時に、ご両親の期待にも応える必要がある。医療機関でも同じ。もちろん、当人の病状回復期待が第一に応えなければならない課題だが、当人の家族も応分の負担を強いられていることを忘れるわけにはいかない。その意味では、家族も顧客だ。

さらに言えば、医療も教育も、社会から人材の供給や復帰を望まれている点では同じ。広く考えると、社会からの人材供給という大きい期待に応えるのが課題だとも言える。