京都では女の子の誕生が喜ばれた
前回(http://president.jp/articles/-/1660)、石井淳蔵さんは東アジアの商人家族の夫婦の一体感が強いことを指摘し、この夫婦労働が支えている産業や企業があると書いておられた。先端的な業態だと思われているコンビニエンスストアが夫婦労働によって支えられているという石井さんの指摘は私にとっては新鮮だった。これをヒントに考えて振り返ってみると、夫婦労働によって成り立っているビジネスは我々の身近にたくさんある。わが家の近所の中華料理店は、旦那さんが調理して奥さんがウエートレスとレジを担当するという夫婦労働によって運営されている。同じく近所のパン屋さんは、2軒目の店を出すまで、旦那さんがパンを焼いて奥さんが売るという夫婦労働によって成り立っていた。ともに、忙しいときはアルバイトを利用することも行われている。
夫婦労働が重要な役割を演じているビジネスはほかにもある。日本の旅館のほとんどは夫婦労働によって支えられていた。夫婦労働の有効性に注目して伸びてきた企業の代表はスーパーホテルである。コンビニの開店資金を得たいという夫婦にホテルの経営を委ねることによって、低価格でありながらも質の高いサービスを提供することに成功している。
夫婦労働の限界は、夫婦の亀裂がビジネスにも影響してしまうことである。コンビニのフランチャイジーの選抜では、夫婦仲の安定性を見極める面接項目があるということを石井さんに教えてもらったことがある。これについても書いていただくことを石井さんにリクエストしておこう。読者の夫婦仲の点検のためにも。家族のあり方は、もっと広くビジネスのシステムや思想にも影響を及ぼしている。フランスの社会人類者のエマニュエル・トッドは、家族のあり方が政治システムや政治思想の原点だという主張をしている。私は、家族のあり方がビジネスのシステムや思想の原点ではないかと思っている。トッドは、平等-不平等、自由-権威主義という2つの軸で、欧州の家族を4つのタイプに分けている(図参照)。さらにそれを7つの家族タイプに分けているが、ビジネスへの影響を見るためには、この2つの軸よりも、重要な軸がある。血縁関係のない人々をどの程度、家族のメンバーとして受け入れることができるかという意味での家族のオープンさである。このことは東アジアの国々の間の違いを見ればわかる。日本と比べると、中国や朝鮮では男系の血のつながりが重視される。東アジアだけではない。ユダヤの末裔であるロスチャイルド家では男系の子供たちだけが相続権を持っているという。それと比べると、日本の家族は開放的である。娘婿が財産を相続し、経営の実験を握ることもある。京都では女の子の誕生がかえって喜ばれたという。息子は選べないが、娘婿は選べるからである。