日本の石油製品需要は5年間で16.2%の減少
日本国内における石油製品の需要減退に、歯止めがかからない。表1は、石油備蓄目標の基礎データとするために、総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会の石油市場動向調査委員会が、今年の4月に策定した平成22~26年度(2010~14年度)の石油製品(燃料油)需要見通しをまとめたものである。
この表からわかるように、10~14年度の5年間に、日本の石油製品需要は、全体で16.2%も減少する。ガソリンは14.8%、灯油は24.3%減り、重油にいたっては36.5%も減少する見通しなのである。
戦後の日本では、石油精製業が消費地精製主義にもとづいて経営されてきた。この考え方によれば、製油所は、あくまで内需向けに石油製品を生産する。したがって、日本国内の石油製品需要が減退すれば、製油所の生産量も減少することになる。石油精製業のような装置産業では、生産量が減少し設備稼働率が低下すると、経営上、きわめて大きな打撃を蒙る。打撃を回避するためには、余剰生産設備を廃棄するしか方法がない。このような脈絡で、最近の日本では、製油所の縮小計画の発表が相次いでいるのである。
具体的には、今年4月にJXホールディングスとして経営統合した新日本石油と新日鉱ホールディングスが、昨年12月に、水島、根岸、大分製油所のトッパー(常圧蒸留装置)各1基の停廃止と、鹿島製油所のトッパー1基の原油処理能力の削減を発表した。続いて、今年2月には、昭和シェル石油が、傘下の東亜石油の京浜製油所扇町工場を閉鎖することを決めた(同社は、その1カ月後、京浜製油所水江工場のトッパーの稼働を停止する措置も講じた)。さらに、出光興産も、今年3月、製油所の一時操業停止を打ち出した。このような動きは、さらに広がろうとしている。
これらの製油所の縮小は、企業の生き残りをかけた経営判断によるものであり、それを批判することはできない。ただし、ここで注意を喚起する必要があるのは、製油所の縮小がこのまま広がりを見せれば、わが国のエネルギー・セキュリティの根幹を脅かすゆゆしき事態になりかねないという点である。
日本の石油をめぐるエネルギー・セキュリティは、一定規模以上の精製設備が国内に存在することを前提条件として、(1)海外で自主開発油田を確保することと、(2)国内で原油を中心に十分な備蓄をもつことの2つを柱にして、成り立ってきた。自主開発油田の確保はある程度成果をあげ、原油備蓄は充実しているといえるが、肝心の「一定規模以上の精製設備の存在」が、ここにきて急速に不透明感を増してきた。製油所の縮小に歯止めをかけないと、石油をめぐるエネルギー・セキュリティの前提条件が崩壊しかねないのである。
コンビナート全体の国際競争力を強化する方法とは
製油所の縮小に歯止めをかけるとはいっても、留意すべき点がある。それは、国際競争力がない製油所を保護政策等の施策によって国内に残すことは、経済的に非合理であり、製品価格の上昇等を通じて結果的に国民の利益を損ねることにつながるので、そのような方策はとるべきではないという点である。エネルギー・セキュリティを確保するため国内に存在することが求められる製油所は、国際競争力をもつ「強い製油所」でなければならない。そのためには、製油所が立地するコンビナート全体の国際競争力を強化することが求められる。「競争力あるコンビナートなくして、エネルギー・セキュリティはありえない」と言うべきであろう。
それでは、どのようにして、コンビナート全体の国際競争力を強化すべきであろうか。この点に関連して注目されるのは、「コンビナート・ルネサンス」と呼ばれるように、日本のいくつかのコンビナートにおいて、石油精製企業や石油化学企業の高度統合が進展しつつあるという事実である。
コンビナートの高度統合が進展すれば、日本の石油産業や石油化学工業の国際競争力は強化される。その理由としては、コンビナートの高度統合がもたらす、以下の3つの経済的メリットをあげることができる。
第一は、原料使用のオプションを拡大することによって、原料調達面での競争優位を形成することである。同一コンビナート内の石油精製企業と石油化学企業との間で、あるいは複数の石油精製企業間で、連携や統合が進むと、重質原油やコンデンセートの利用が拡大する。最近では再び軽質原油と重質原油との価格格差が拡大しており、コンビナート統合による重質油分解機能の向上やボトムレス対策の進展によって、相対的に低廉な重質原油を大量に使用できるようになれば、国際競争上、有利な立場を得ることができる。一方、天然ガスに随伴して産出されることが多いコンデンセートに関しては、一般の原油より軽質でナフサに近い性状を有しながら国際的にあまり利用されてこなかったため、石油精製企業・石油化学企業間の提携・統合により、それを使用することが可能になれば、競争上の優位を確保しうる。
第二は、石油留分の徹底的な活用によって、石油精製企業と石油化学企業の双方が、メリットを享受することである。同一コンビナート内でリファイナリー(石油精製設備)とケミカル(石油化学)プラントとの統合が進めば、リファイナリーからケミカルプラントへ、プロピレンや芳香族など、付加価値の高い化学原料をより多く供給することができる。また、エチレン原料の多様化も進展する。一方、ケミカルプラントからリファイナリーへ向けては、ガソリン基材の提供が可能である。これらの石油留分の徹底的活用によって、石油精製企業も石油化学企業も、競争力を強化することができる。
第三は、コンビナート内に潜在化しているエネルギー源を、経済的に活用できることである。残渣油を使った共同発電、熱・水素の相互融通、LNG(液化天然ガス)関連の冷熱の活用などがそれである。