日本社会は、なぜ「困っている人」が困っていると言えないのだろうか。1日中働きづめでも、手取りが20万円にも届かず生活困窮するシングルマザーが半数を超えている。オーストラリア人の映画監督が、これまで日本人が見て見ぬふりして放置してきた闇を映像化した作品が海外で大きな話題になっているという。ジャーナリストの此花わかさんが監督を取材した――。
なぜ「困っている人」が困っていると言えないのか
驚くことに、その試写会には河野太郎元デジタル大臣や、イギリス大使やノルウェー大使といったセレブもいた。彼らが見たのは、ドキュメンタリー映画『取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境』(11月9日公開予定、文部科学省選定作品)。オーストラリア人の元プロレスラーであるライオーン・マカヴォイ監督の長編デビュー作だ。
日本国内で以前から懸案となっているシングルマザーの問題に、なぜ外国人が関心を抱いたのか。そこには、日本特有の「闇」が隠されていることが作品の中で明かされていく。
同監督が初来日したのは24年前の2000年。8週間滞在中に日本を気に入り、大学の交換留学やワーキングホリデーを経て2005年以来、日本に住んでいる。最初は英語教師、そしてその後はプロレスラー(かつて存在した日本のプロレス団体WNC所属)、いまはフィルムメーカーと一風変わった経歴をもつ彼は、19歳でオーストラリアの空手チャンピオンになるほどの腕前でアクション俳優を志していた。
2009年、日本で格闘技をしながら短編映画で俳優デビューを飾るが、役者に向いていないと気づく。その後、2013年に「藤原ライオン」というリングネームでプロレスラーとして活動しているうちに、プロレス団体のカメラマンも務めるようになった。
カメラにのめり込んでいった監督はプロレスと並行して、2015年に自身の映像制作プロダクション「ジャパン・メディア・サービス(JMS)株式会社」を設立。そして、彼が手掛けた初の長編ドキュメンタリーが本作だ。
公開に先駆け、監督に取材すると、日本人が思うシングルマザーの問題とは別の視点・角度から彼女たちの困窮状況の苛酷さがわかった。