組織を立て直すトップの起用は外部と内部、どちらからがいいのか。不祥事が続き、危機の只中にある日本相撲協会を例に改革時におけるトップの適性について考える。

トップの任免こそがガバナンスの核心

部外者をトップにすることのメリットとデメリット
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部外者をトップにすることのメリットとデメリット

日本相撲協会の理事長人事を巡ってひと悶着があった。監督権限を持つ文部科学省や不祥事の後、設置された独立委員会は、理事長を外部から起用すべきだと主張していたのに対し、相撲協会の理事会は内部から理事長を選んだ。内部からの選抜に対して一部のマスコミは厳しく批判している。この批判を受けて外部者は副理事長として任命されることになった。今回の騒動の争点には、企業のガバナンス改革にも参考になる重要な問題が隠されている。少し深く考えてみることにしよう。

企業における社長・会長の任免と同様、相撲協会のトップである理事長の任免は、相撲協会にとってのガバナンスの基本的な課題の1つである。経営トップの任免やトップの行動・成果のモニタリングと評価を通じて、よい経営が行われるようにすることが、ガバナンスである。その中でもとくに重要なのがトップの任免である。企業のガバナンスの先駆的研究者であったバーリとミーンズは、トップの任免こそがガバナンス(その時代の言葉を使えば、企業支配)の核心であると言っている。ガバナンスで難しいのは、よい経営が行われているかどうかの判断である。企業の場合だと、売り上げの成長率、利益率などの数字を見ることで、おおよそのところを知ることができる。ところが日本相撲協会のような非営利法人の場合には、このような代理指標をつくるのが難しい。もちろん、企業の場合と同様、不祥事が起こらないようにするということも、よい経営の重要な条件だ。ところが、ガバナンスの問題は、不祥事の問題をきっかけにして認識されることが多いため、不祥事を防ぐということだけが、過度に強調されてしまうことが少なくない。そのために、ガバナンス改革をきっかけに、組織体が元気を失ってしまうということがある。不祥事を防ぐ制度、つまりよくないことが起こらないようにする制度と、よいことが起こるようにする制度とは違うのである。よくないことを防ぐ制度はよいことを起こさせなくしてしまう傾向すらある。日本の企業が元気をなくした一因も、よくないことが起こらないようにするという視点からのガバナンスの改革を急ぎすぎたためではないかと私は見ている。政治の世界でも同じような現象が起こっているのかもしれないという印象を受けることがある。

組織体のトップの任免をめぐる重要な論点の1つは、トップを内部から起用すべきか、外部から招聘すべきかという論点である。

外部からトップを招聘することのメリットはいくつかある。もっとも大きなメリットは、内部者の論理にとらわれずに大胆な改革を行うことができるというメリットである。第二は、外部者がリーダーとなることによって、組織体の重要な意思決定機関の意思決定が透明化され、より理屈の通った意思決定が行われるようになることである。外部者が入ることによって組織体の中で行われている行動について、よりよいモニターが行われるようになるというメリットを指摘する人もいるが、私は、このメリットはそれほど大きくないだろうと思っている。モニタリングは、事情に精通している内部者のほうがよりよい情報をより速く集めることができる。最高意思決定機関にどのような情報を提出するかを決めるのは内部者であり、外部者は、どのような情報が隠されているかを知ることが難しいからである。