「精神保健福祉センターなど、自治体でも相談窓口を用意しています」

「今の貯蓄が2000万円しかないのに、これから3100万円まで貯蓄を増やすのは無理ですね」

父親はうなだれました。

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「ご長男が働けなかった場合、相続である程度お姉様にがまんしていただく必要があります。それだけに、あまりご長男の自立支援にお金をつぎ込むのは考えものです。生前にご長男が受けた金額を考慮すると、均等に遺産分割をしたとしても、ご長男の利益のほうがかなり多くなるからです」
「長女のことも考えておかなければなりませんね」
「そうです。特にご両親亡き後は、いろいろな面でお姉様が頼りになります。ある程度ならがまんをお願いすることもできるでしょうが、あまりに不公平が大きいと、お姉様の協力が得られなくなります」
「ではどうすればよいでしょうか」
「申し上げにくいのですが、まず、お金をかければお子さんが必ず立ち直るという考えを捨ててみてください。前回、半年も寮生活を送ったにもかかわらず効果ありませんでした。同じことをしても、あまり期待できない、と考えるほうが自然かもしれません。今後それほど費用をかけなければ、お姉様に少し譲歩してもらうだけでご長男の生活は成り立ちそうです」

私は、お子さんが自立するための方策についてはできるだけ言及しないようにしていますが、ついつい言葉が出てしまいました。そこで母親が言いました。

「本人が嫌がっているのだから、もう施設に入れるのはよしましょう。地元の家族会に参加して、話を聞いてみてはどうでしょうか」
「精神保健福祉センターなど、自治体でも相談窓口を用意しています。けっしてお金をかければ状況が良くなるというものでもありません。ご長男はまだ31歳です。時間をかけて、じっくりと取り組むことをお勧めします」

父親の表情も少し明るくなりました。長男の社会復帰のための取り組みはまだ始まったばかりです。親子で試行錯誤しながらも、一歩ずつ進んでいければと願っています。

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