悪質な「引き出し屋」にさえすがってしまう親の心理

64歳の父親は再雇用という形でまだ現役で働いているとはいえ、定年時に退職金を受け取っており、今後は夫婦の年金だけが頼りです。長男に生活費を残すことを考慮に入れると、けっして余裕はありません。資産である2000万円の現金貯金には手を出すことも難しいです。

「立ち直ることを諦めろ、と言うのですか」

父親は強い口調になりました。

「いえ、けっしてそうではありません。しかし、立ち直るための努力がうまくいかない場合もあります。その場合でもご長男が生活していけるように考えておかなければなりません。その上で、できる範囲でお金をかけてみましょう」

私たちのファイナンシャル・プランナーのグループでは、ひきこもりのお子さんが生涯働けないことを前提にシミュレーションを行います。それでも親亡き後にお子さんが何とか生活していける方策を考えます。これはお子さんの回復を否定しているわけではなく、あらかじめ悪いケースを考えておきましょう、ということなのです。それでも生活が成り立つようにしながら、社会復帰の方策を考えましょうとお勧めしています。

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お子さんが働けずに引きこもってしまうと、親は立ち直らせようと必死になります。わらをもつかむ思いで、支援団体や支援を行う企業にすがる気持ちもわかります。また、お子さんが働けるようになれば、ある程度の金額も無駄ではありません。それだけにお子さんを立ち直らせようと、多額の資金をつぎ込んでしまう親はいます。中にはそれを当て込む、いわゆる「引き出し屋」のような、不当に高い料金を請求する悪質な団体や業者がいるのも事実です。

正しい支援団体を選ぶ際の3つのポイント

もちろん、多くの支援団体や支援企業が、本人のために献身的な努力をしています。しかし、なかなか外からはわかりにくい上、困っているときは盲目的になりがちです。また、たとえ真面目に取り組んでいる支援団体であっても、本人と合う・合わないの問題があり、誰でも効果があるとは限りません。

私はお金をかけて支援団体や支援企業に依頼することを否定はしません。自立支援の専門家ではありませんので、どのような方式がよいかもアドバイスできません。しかし、支援の依頼先を選ぶ際に、次の3つのポイントは押さえるようにお願いしています。

① 費用が大きすぎないか

「適正な金額」というのは難しいのですが、今は支援団体や支援会社がいくつもありますので、費用を比較してみましょう。高くても信頼できるところならよいのですが、あまりに高いようだと、困っているのにつけ込んでいるのかもしれません。

② ひきこもり支援の関係者や家族会などに評判を聞く

良い評判も悪い評判も、関係者の間では広まります。特に家族会には、家族や本人の立場からの経験が蓄積されていますので、情報が豊富です。効果があるのかどうかはもちろん、人権無視の研修をしていないかなども確認しておきたいものです。

③ あらかじめ支援を受ける期間と費用の限度を決めておく

短期であれば、一時的に大きな金額をかけても将来の家計に影響しません。しかし、それが長期にわたって続くと、かえって本人の将来の生活を苦しいものにしてしまいます。