保守作業は毎晩100カ所以上、その数1500人

JR西日本は2009年のダイヤ改正でも終電を最大20分早めているが、これは2005年に発生した福知山線脱線事故の反省を踏まえ、乗務員の労働環境を見直すために行われた「働き方改革」であった。

ところが今回は、運転士の勤務時間を減らすためではなく、夜間保守の作業時間を延ばすために終電を繰り上げたいという。

鉄道は終電後も、線路や電線の修繕や点検、車両の整備など、鉄道を安全に運行するための準備や作業が一晩中行われている。列車本数の多い都市部では日中に作業を行うことができないため、深夜の限られた時間に集中して作業する必要があり、特に線路保守作業は人海戦術で行われる。

JR西日本の場合、近畿エリアの在来線では毎晩、100カ所以上で、およそ1500人が保線作業に従事しているという。ところが、近年の働き手不足により、将来的に夜間の保守作業をこのままの形で継続することが難しくなっているというのだ。

JRが人手不足とは大げさだと思うかもしれないが、工事に従事するのはJRの社員だけではない。彼らの業務は工事の管理監督が中心であり、人手を必要とする実作業は下請け会社の社員によって行われているからだ。JR西日本の協力会社の中には、2008年から2018年の10年間で線路保守に従事する従業員が23%減少した例もあるという。

終電を早める以外の方法はないのだろうか

実際、大阪労働局と東京労働局の「求人・求職バランスシート(2019年4月)」を比較すると、専門技術職の「建築・土木技術者等」の有効求人倍率は、大阪の5.5倍に対して東京が8.2倍だが、鉄道線路工事作業員を含む「土木の職業」では、東京の6.97倍に対して大阪は8.32倍と上回っている。ちなみに「電気工事の職業」は東京が5.13倍、大阪が4.85倍。いずれも深刻な人手不足であるものの、特に関西では一般土木作業員の確保に苦労していることが読み取れる。

大阪労働局「求人・求職バランスシート(2019年4月)」
東京労働局「求人・求職バランスシート(2019年4月)」

特に深夜の重労働が中心で、土休日の休みが取りにくい鉄道線路工事作業員は、働き手が急速に減少しているのが実情だ。JR西日本は、将来の鉄道を担う若い世代が働きやすい環境を整えることは喫緊の課題であるという認識から、まずは深夜作業の日数を減らし、土休日に休みを取りやすい体制に改めるため、今回の深夜帯ダイヤ見直しの検討に至ったと説明する。

安全運行のためのメンテナンスの必要性、重要性や、作業員の労働環境改善に異議を唱える人はいないだろう。しかし、終電繰り上げ以外の方法で解決することはできないのだろうか。