線路保守作業を作業員の数×作業効率×時間に分解して考えてみよう。作業員の数を増やせない前提で考えた場合、問題の解決には3つの方法がある。保守業務の作業量そのものを減らすか(省力化)、作業効率を上げるか(機械化)、作業時間を増やすかである。

終電を30分早めると年間作業日数が10%減る

省力化と機械化はすでに各方面で進められている。例えばレール継ぎ目の除去や、木製からコンクリート製マクラギへの交換など、設備の強靭きょうじん化やシンプル化によってメンテナンスの頻度を減らしている。また、これまで人力を中心に行っていたマクラギや電柱の交換作業を、専用の機械を使用して、より少ない人数で行えるようにする試みも始まっている。

ただ、設備の更新を伴う省力化は、徐々に成果が出ていくもので、特効薬にはなりづらい。結局のところ、すぐに成果につながる対策は、作業時間を延長して、1日の作業量を増やす他にないのである。

これがローカル線であれば、列車の合間に作業をしたり、日中の列車を運休して集中的に工事を行うことができる。しかし、都市部の鉄道は日中も高頻度で運転しており、一時たりとも止めるわけにはいかないので、作業時間を増やすには、最終電車を早めるしかないというのだ(終電後に運行する夜行列車や貨物列車は迂回うかいルートがあるため作業の支障にはならないという)。

JR西日本の試算によれば、最終電車の発車時刻を30分程度早めると、年間の作業日数をおおむね10%減少する効果が見込めるという。夜間作業を実施する日数が減れば、作業員が休日を取りやすくなるというわけ。地道な積み重ねで、少しでも労働環境を改善したいとしている。

しかし、最終電車を早めれば利用者が不便を被るのもまた事実だ。それ以上に社会に影響はないのだろうか。

「鉄道も社会も変わるべきだ」というメッセージ

現在、JR大阪駅の終電は、JR京都線が24時31分(高槻行き)、JR神戸線が24時28分(西明石行き)。両線と並行する阪急電鉄は、神戸線が24時25分(西宮北口行き)、京都線が24時25分(正雀行き)だ。

また、大阪環状線の終電は、外回りが24時33分(京橋行き)、内回りが24時11分(天王寺行き)。

一方でJR東日本はというと、山手線東京駅の終電は、外回りが1時03分(品川行き)、内回りが24時39分(池袋行き)だ。いずれも終電を24時まで繰り上げると、対競合路線で見ても、対東京の観点で見ても、少々早いようにも思える。

だが、ここでJR西日本は興味深いデータを提示する。近年、働き方改革の影響で帰宅時間帯のピークが早まり、深夜時間帯の利用が減少しているというのだ。

平日の大阪駅の利用者数は、2013年から2018年の5年間で17~20時台が107%増加したのに対し、21時~23時は93%、24時台は83%に減少。この傾向は京都駅や三ノ宮駅でも同様だという。