入院がきっかけで独立開業

JR金沢駅からクルマで約30分。石川県河北郡内灘町の海沿いの高台に「カフェ ド マル」という店がある。この店のオーナーが満留仁恵さん(44歳)。約22坪、座席数26席の店を切り盛りする。08年に開業した店は12年目となった。

元メガバンク行員 満留仁恵氏

開業時からのコンセプトは「女性が1人でも安心してくつろげる、コーヒーがおいしい店」だ。例えば、店の基本となるコーヒーの味では、地元で長年続く焙煎業者から豆を仕入れ、挽きたてと淹れたてを提供する。育った環境も大きいようだ。

「コーヒー好きな両親に育てられました。自宅にはコーヒーを淹れる器具や食器があり、家族で喫茶店にもよく出かけていた。もともと好きだったコーヒーについて、もっと知りたい、おいしさの秘密を知りたいと思ったのです」

満留さんの前職はメガバンクの行員。窓口業務で接客を学び、社内表彰を受けた経歴もある。だが、体調を崩してやむなく退職。通院中に立ち寄ったコーヒー店の味に魅了された。

療養中の満留さんは「おいしいコーヒーに救われた」思いを持ち、やがて「もともと好きだった接客業にコーヒーを通じて復帰できる」と、カフェの起業を決意した。

まずは本で基礎知識を得て、あの店にコーヒー豆を卸していた西岡憲蔵さん(キャラバンサライ社長)に学び、同社のコーヒー教室にも通い、技術を身につけた。コーヒーに合う自家製スイーツも店で提供する。

満留仁恵さんが経営する金沢近郊の「カフェ ド マル」。メニューや接客だけではなく、外観や内装、什器類にも満留さんのセンスが光る。

お堅い銀行とカフェは接客が異なるイメージがあるが、「ほとんど同じです」と話す。

「銀行でもカフェでも、親しみを感じてほしい、ファンをつくりたいと思い、接客しています。カフェの仕事にはやりがいを感じており、お客さまと接する基本を育ててくれた銀行には感謝しています」

ホットメニューは、品格のあるカップを温めて提供。顧客層の女性を意識して、開業当初からノンカフェイン紅茶を用意。店に置く雑誌は、女性向けを多く取りそろえた。

「3年続く店は半数」ともいわれるカフェ業界で、「基本」「縁」「本気度」を踏まえながら10年以上続く人気店にした。「心を込めた接客は必ず伝わると信じています」。

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(撮影=永井 浩、タムラ セイジ)
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