※本稿は、堀田秀吾『最先端研究で分かった頭のいい人がやっている 言語化の習慣』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
「やる気」は動いた後にやってくる
私たちは、やる気がないから動けないと思いがちです。しかし、脳科学と心理学の研究はむしろ逆を示しています。先に体を動かすことで、やる気のエンジンがかかりやすくなるのです。
ジョージア大学のフリッツとオコナーによる実験では、ADHD(注意欠如・多動症)の若い男性たちを対象に、中強度のサイクリングを20分間行った後と、ただ休憩した後とで、認知課題に取り組む意欲や気分を比較しました。その結果、運動後は課題へのモチベーションが有意に高まり、気分も改善していたのです。つまり、「動く」ことが先にあり、その結果として「やる気」が後からついてくる――これが「体が先、脳が後」の法則です。
この背景には、脳の報酬系の働きがあります。報酬系の一部である側坐核が「やりたい」という欲求を生み出し、腹側淡蒼球が予測される報酬の大きさに応じて行動のスピードや機敏さを調整します。
アメリカ国立衛生研究所の彦坂と自然科学研究機構生理学研究所の橘の研究では、サルを使った実験で、腹側淡蒼球の活動が報酬予測と「やる気」の強弱に直結していることが示されました。報酬が多く見込めるほど神経活動が高まり、行動スピードも上がったのです。
ドーパミンが「やる気」を引き起こす
私たちの脳には、ドーパミンという、まるで「やる気の燃料」のような神経伝達物質があります。この物質が側坐核に作用すると、私たちは「よし、頑張ろう!」「やってみよう!」という、前向きな気持ちになりやすいのです。
このドーパミンは、「努力ベースの意思決定」という心の働きに深く関わっています。
これは、一言でいうと「ご褒美(報酬)をもらうために、どれだけ頑張るか(努力するか)を決めること」です。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのハードらの研究によると、運動は体内の炎症を減少させ、その結果としてドーパミン伝達を促進する可能性があり、これが体にとってのご褒美となります。
ですから、体を動かすことで炎症が鎮まり、脳内のドーパミンが活性化し、結果として「やる気」が増すという、連鎖が起こるのです。
重要なのは、この「やる気回路」は受動的に待っているだけでは十分に活性化されないということです。
運動や小さな行動開始は、ドーパミン放出を促し、側坐核を活性化させるトリガー(引き金)になります。さらに、その行動を「ことば」で自分に指示すること(セルフトーク)や、行動の意味づけを言語化することは、行動開始の助けになります。

