「あなたならできる」で行動力がアップ
②「あなたは○○」
イリノイ大学アーバナ・シャンペイン校のドルコスらは、セルフトークの「人称」の違いが行動やモチベーションにどれほど影響するかを明らかにする研究を行いました。
実験では、自分を励ますときに、一人称の「私(I)」を使ったり、二人称の「あなた(You)」を使ったりしてもらいました。
結果、たとえば「あなたならできる!」のように「あなた」を使って語りかけたグループは、「私」を使って語ったグループよりも行動を始める意欲が約18%高く、運動課題をするつもりの時間も2.25時間長くなりました。
二人称を使うことで、他者から励まされている感覚が引き起こされるだけでなく、自分自身から心理的距離が生まれて、自己批判や迷いにとらわれにくくなり、行動への推進力が増すのです。
このように、二人称の「あなた」で自分に語りかけるだけで、脳はまるで信頼できる友人から背中を押されたように感じ、より積極的な行動意図と態度を形成します。この知見は、教育・スポーツ・臨床など多くの分野で応用できる、シンプルかつ即効性のある言語化の技法といえるでしょう。
未来の姿と目の前の壁を書き出してみる
③「メンタル・コントラスティング」
ニューヨーク大学のエッティンゲンとゴルヴィッツァーが提唱した「メンタル・コントラスティング」は、やる気の問題を解決する強力な方法です。
やり方はシンプルです。まずは、達成したい未来の姿を具体的に言語化します。
たとえば、「新しい趣味を見つけたい」ではなく、「週末にテニスをして、体力をつけたい」「英会話を習って、海外旅行を楽しみたい」と明確にします。
次に、その未来を阻む現実の壁も言語化します。たとえば、「仕事が忙しい」「近所に教室がない」などです。このとき重要なのは、夢と障害を並べて考えること。人間は、壁を乗り越えられるとわかればエネルギーが高まり、乗り越えられないと判断すれば資源を別の目標に振り向けます。
このメンタル・コントラスティングは、やるべきことを「現実的に実行可能な形」に変換し、脳の行動制御ネットワークを刺激します。いわば「行動のシナリオがない」状態を言語化によって行動に直結する形へと書き換えて、行動のスイッチを入れる方法なのです。
このように、やる気を待つのではなく、「ことば」で先に脳を動かす。この小さなスイッチの積み重ねが、「やりたくない」を「もう始めている」に変えていくのです。
よい・悪い両方の未来像を具体化し、自分を「あなた」で励ましながら、実行を宣言する。



