フリーランスへの年金適用のヒントはドイツに

ちなみに、ドイツでは、自営業者は原則として年金保険の強制加入の対象から除外しているが(一般年金保険に任意加入可)、強制被保険者となる一部自営業者が存在する(※2)

具体的には、独立自営の教育者、看護師、助産師、水先人、芸術家・ジャーナリスト、家内工業者、沿岸業業者、手工業者である。より具体的に見れば、専ら特定の委託者のためだけに業務を行っている場合には「労働者類似の自営業者」とされ、法律に基づき強制被保険者になっている。

強制被保険者である自営業者は、労働者類似の自営業者を含め、原則として保険料の全額を自ら負担する。注目されるのは、芸術家・ジャーナリストのケースで、保険料は芸術家社会金庫が負担するという仕組みが作られている。これは、芸術家・ジャーナリストから保険料の半分を調達し、残りの半分を芸術家・ジャーナリストの仕事を利用する企業の負担と連邦からの補助金で賄うという仕組みである。

この仕組みは、プラットフォーマーを介したマッチング・ビジネスについての被用者年金適用に応用できるだろう。例えば、ネットでの仕事の発注者やプラットフォーマーが保険料の一部を負担するものとし、プラットフォーマーが徴収事務を行うという形が考えられる。

複業者については、合算して適用されることが本来あるべき姿で、まずは、労働時間規制面でも客観的な労働時間の記録が事業主に求められる方向のもとで、複業者が申告すれば複数の事業所がそれぞれ社会保険料を支払うというルールにすればよいだろう。

実効性を高めるため、雇い入れの際に、事業主が労働条件の説明を行う際に、そうしたルールがあることを説明することを義務付けるようにすればよいだろう(※3)

このように、フリーランスも含めて厚生年金が適用され、複数事業所で働く場合に報酬が通算される仕組みの整備に向けた議論をいち早く開始すべきであり、次回の財政検証までには具体的な改革案を詰めていく必要がある。

(※2)以下は、福島豪(2015)「ドイツの年金保険の適用拡大」西村淳編『雇用の変容と公的年金』東洋経済新報社 に依拠している。
(※3)複業者の申告に任せると、雇われないことを危惧して申出がなされない可能性も十分に考えられる。しかし、説明義務化によって良心的な経営者は対応するであろうし、人手不足が後押し要因になると考えられる。中長期的には、マイナンバーなどの社会的な共通基盤の整備により、所得捕捉を進めていくことが必要である。