可能な限り“より高い賃金で”“より長く働く”

今年8月、5年に一度の「財政検証」の結果が公表され、来年予定の公的年金制度改正に向けた議論が進んでいる。

公的年金というと、「年金財政の健全性」や「世代間の不公平性」に焦点が当たることが多いが、本稿では働き方や労働市場との関わりにフォーカスして論じたい。まず指摘しておきたいのは、少子高齢化・長寿化が進むもとでは、可能な限りで“より高い賃金で”“より長く働く”ことが、充実した老後生活を送るための有効な戦略になるということである。

写真=iStock.com/kanetomo883
在職老齢年金制度の存在が、高齢者のもっと働きたいという意欲を阻害している。(※写真はイメージです)

もちろん、制度の信頼性を保つ観点から、年金財政の健全性や世代間の不公平性が重要なのは論を俟たない。だが、人口動態のメガトレンドを踏まえれば、それらのみでは縮小均衡の議論に陥りかねず、公的年金の在り方を就労・労働市場との関わりで考えることが、従来に増して重要になっているというのが筆者の基本的な認識である。

以上の考えのもと、「労働市場からみた年金制度改革のあるべき方向性」について、2回に分けて論じたい。1回目は、2019年財政検証の含意と在職老齢年金の見直しについて考察し、2回目は被用者年金の適用拡大の問題を取り上げる。

8月に公表された財政検証結果の概要からみておこう。前提となる現行の公的年金の仕組みを確認すると、2004年の制度改正により、2017年度以降、厚生年金保険料率水準は18.3%に将来にわたって据え置かれることとなり、概ね100年間で財政均衡を図るとして、積立金を活用しつつ、給付水準を決めるものとなっている。毎年の給付額は概ね賃金上昇に連動するが、「マクロ経済スライド」という仕組みで現役世代の人口減少に連動して年金水準を減らすことで、世代間の公平性に配慮する形になっている。

ただし、標準的な年金の給付水準は、今後の少子高齢化の中でも年金を受給し始める時点で、現役サラリーマン世帯の平均所得の50%を上回るように、運営することが義務付けられている。そのためのいわば「健康診断」の仕組みとして、5年ごとに財政検証という作業が行われるわけだ。