第4次安倍改造内閣は「全世代型社会保障」への改革を最重要課題として位置づけ、そのための優先施策に高齢者就労の促進を挙げている。わが国は先進国のなかでも最も速いスピードで少子・高齢化が進んでおり、労働力を確保するためにはシニアの活躍が必要である。
国民一人当たりの負担を抑えつつ必要な社会保障ニーズを充足するためにも、できるだけ多くの高齢者が働き、給付を受ける側から負担する側に回ってもらうことが重要だ。個人サイドから見ても、体力的にはこの20年足らずで5歳程度若返っており、生き甲斐のためにも65歳を超えて働き続けることが望ましい。
また、高齢化が進展すれば、引退世代と現役世代のバランスから、年金をはじめとする老後生活の公的保障機能は低下せざるを得ず、ゆとりのある老後生活のためにもできるだけ長く働くことが求められる。
企業に強要すればシニアの能力を殺す
実は、わが国は主要欧米先進国に比べて高齢者が働く割合の高い国であり、とくにここ数年で働くシニアの数は大きく増加している。言うまでもないが人手不足の深刻化が追い風になっており、2012年から2017年の5年間で、60歳以上の就業者は11.2%増え、65歳以上でみれば35.4%も増えている。
つまり、高齢者雇用は「量」的にはかなり促進されているのだが、その「質」の面には問題がある。シニアの能力を十分に活かすことができているのか、そして、その貢献度に見合った処遇が適正に行われているのか、という点に大きな課題がある。処遇面からみてみよう。
年齢別の賃金プロファイルの国際比較を行うと、欧米諸国では40歳代が概ねピークとなるが、その後の賃金も大きくは切り下がらない。一方、わが国はいわゆる年功賃金のもとで50歳代がピークになり、60歳代には大幅に切り下がるという特徴がみられる。
定年前後での仕事の変化をみると、約8割が定年前と同じ仕事に就いている(※1)。もっとも、そのうち半分程度は責任の重さが変わっており、必ずしも仕事対比処遇が低くなったとは断言できない。しかし、賃金低下と整合性をとるために補佐的な立場に追いやられ、その能力が十分発揮できていない高齢者は少なくないように思われる。