ちなみに、高齢者の人材管理の専門家である高木朋代・敬愛大学教授の研究(※6)によれば、企業が求めるシニア人材のキャリア形成の特徴として、(1)同一職能内で長期の経験を積んでいること、(2)困難性を伴う起伏のあるキャリアを経験していること、が挙げられるという。まさに「ハイドブリッド」人事の有効性を示唆しているといえよう。

企業に残る「シニアは使えない」という思い込み

ただし、こうした人事・報酬制度の改革には一定の時間がかかる。すでにシニア・ミドルになっている人はどうすればよいのか。それには、企業と個人双方の意識改革が必要になる。企業サイドについては、「シニアは使えない」という思い込みがなお多く残る。リクルート・ジョブズの調査では、3分の2以上の企業がシニア層の採用に消極的であるが、その理由をきくと「特に理由はない」と答えるケースが4割前後を占める(※7)

他方、シニア層の採用に積極的な企業の4~6割が「求める人材像にあっていれば、年齢は関係ないから」、2~3割が「現在就業中のシニア層従業員が優秀なため」と、その理由を回答している。実際には「使える」シニアが多いのだが、「食わず嫌い」の思い込みでシニアの活用ができていない企業が多く存在することが示唆される状況にある。

個人サイドも的確な自己認識を得ることが重要である。キャリアの棚卸や対話型の外部セミナーなどへの参加がそのきっかけづくりとして有効である。そのうえで、過去にとらわれず、水平的な人間関係を構築できる「かわいいシニア(高齢者)」(今野浩一郎・学習院大学名誉教授)になる努力をすることだ(※8)。もっとも、「かわいさ」がキャリア形成にとって重要なのは年齢を問わない。専門性を有するのは出発点に過ぎないのであって、それを鍛えて高めていくには、多様な人々との幅広い交流が不可欠といえるからである。

(※6)高木朋代(2008)『高年齢者雇用のマネジメント‐必要とされ続ける人材の育成と活用』日本経済新聞出版社
(※7)リクルートジョブズ・ジョブズリサーチセンター(2018)『シニア層の就業実態・意識調査2018-企業編』
(※8)リクルートワークス研究所(2018)連載・コラム『人生100年時代の働き方』「福祉的雇用」から「仕事ベースの処遇」へ 世界が注目する高齢化先進国の実験。なお、本稿本文中の「福祉的雇用」も今野氏のネーミングによる。

山田久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 理事/主席研究員
1987年京都大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。93年4月より日本総合研究所に出向。2011年、調査部長、チーフエコノミスト。2017年7月より現職。15年京都大学博士(経済学)。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科兼任講師。主な著書に『失業なき雇用流動化』(慶應義塾大学出版会)
(写真=アフロ)
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