外国人労働者の受け入れを拡大するための法改正の審議が、国会で大詰めを迎えている。労働問題のエキスパートである日本総研の山田久主席研究員は、「『制度と実態の乖離』を見直すもので、法改正は評価できる。問題は受け入れのペース。現状のまま今の勢いが続くと排外主義が高まる恐れがある」と指摘する――。
外国人労働者の受け入れ拡大を目指す出入国管理法改正案の採決で、投票する安倍晋三首相(左下)=27日夜、衆院本会議(写真=時事通信フォト)

新制度では「単純労働」でも外国人を受け入れる

政府は新たな在留資格を設け、人手不足を理由とした外国人労働者の受入れに道を開く入管法(出入国管理及び難民認定法)改正案を今臨時国会に提出した。11月27日には衆議院を通過して翌日28日から参議院での審議に入っている。

専門的技術的分野以外のいわゆる単純労働分野における外国人労働者は受け入れない、とする従来方針を転換する内容であり、「移民政策」との関わりや技能実習など既存制度の問題などを巡って、国会での議論は紛糾している。本稿では政府案を評価し、あるべき外国人受入れ政策について考える。

まず、今回の政府案の内容から確認しておこう。新たに設けられる在留資格は「特定技能」で、真に受入れが必要と認められる人手不足分野で、生活に支障のない日本語能力と一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れる。通算で5年を上限とし、原則として派遣や請負でない直接雇用形態を前提とする。

また、許可された活動の範囲内で転職を認める。家族の帯同は基本的に認めないが(「1号」)、熟練した技術を有し、所管省庁が定める一定の試験に合格することなどで「2号」に移行すれば、家族帯同を認めるとしている。

実施体制としては、法務省と関係行政機関において分野別運用方針を協議・決定するとされ、そこには人手不足の状況、生産性の向上や国内人材確保のための取組などを記載するとしている。受入れ機関(企業)に対し、支援計画を策定し、外国人に対する日常生活上、職業生活上または社会生活上の支援を実施することを求めるが、登録支援機関に支援計画の策定や登録手続きを委託することができる。さらに、今回、入国管理局を格上げし、法務省の外局として「出入国在留管理庁」を設置する。

以上の内容の基本的な考え方は概ね妥当であり、これまで技能実習生や留学生のアルバイトといった名目で、事実上未熟練の外国人労働者を雇う「制度と実態の乖離」の大きい状態を見直し、正面から外国人「労働者」を受け入れしようというスタンスは高く評価すべきであろう。

第三者機関による受入枠の設定を

もっとも、国会で野党が批判するように、制度の具体的な部分が不明瞭であることは否めない。衆議院での議論では、外国人労働者の受入れの上限が主要論点の一つとなった。政府が示した「5年間で最大約34万人」の根拠となる試算は所管官庁によるもので、現実的な見通しではなく政策目標を前提にしたものもあり、その客観性には疑問が残る。

さらに、約34万人という数字は今回新たに導入される在留資格の対象となる人々の数であり、「日本人の仕事を奪わず、生産性向上を阻害しないため」という上限設定の意義を考えれば、実態的には労働者となっている技能実習生や留学生アルバイトの数も含めて考えられるべきものであろう。

ただし、国会審議の段階で具体的な受入れの数字を決めてしまうのは実務上難しいだろう。国会で議論すべきは、望ましい受入れ枠をどう決めるかの「仕組みの在り方」についてであり、例えば、専門家をメンバーにした第三者機関を設置して、中期的な目途と当面1年の上限を示す作業を、毎年行うといった仕組みを整備するといったことであろう。