労働組合は従業員のための組織だ。だが日本の労働組合は、過労死や正規・非正規格差という課題を解決できなかった。どこに限界があったのか。日本総研の山田久主席研究員は「日本の労働組合は雇用維持のために労働条件の悪化を結果的に受け入れてきた。労使自治を回復させるには、ドイツの『ワークスカウンシル(事業所委員会)』という仕組みが参考になる」という。どんな仕組みなのか――。(後編、全2回)
正規・非正規の格差拡大を黙認してきた労働組合
前回、働き方改革関連法の成立はあくまで出発点に過ぎず、重要なのはそれを起点にして、さまざまな仕組みを継続的に見直していくことであると述べた。実は今回の働き方改革を通じて露呈した、根本的だが見過ごされがちな重要問題がもう一つある。それは「集団的労使関係に基づく労使自治」をどう考えるかという点である。
先進資本主義国では通常、国家が決める労働条件は最低賃金をはじめとしたミニマムなものにとどめる。具体的な賃金水準や労働時間の在り方については、産業や企業の事情の多様性に鑑みて、あくまで労働組合と使用者との交渉によって決められるのを原則としている。わが国もその例外ではないのであるが、今回の労働時間規制や同一労働同一賃金原則の規定は、この労使自治への国家介入であり、本来は望ましいことではない。
にもかかわらず、今回の政府の取り組みが是認されるのは、過労死や正規・非正規格差という職場の大きな課題が、労使自治では解決されてこなかったからである。本来、その役割の主導が期待されているのは労働組合であるが、わが国の労働組合は「正社員組合」の性質が強く、正社員の雇用維持を第一義に考えるため、正規・非正規の格差拡大を黙認してきたといえよう。
グローバル化が進むなかでの競争激化のもと、雇用維持のためには、長期間労働や賃上げ抑制など、労働条件の悪化を受け入れてきたことも否定できないであろう。
国家介入が強まると、企業活動や働き方にマイナスとなる
このように、労働組合が自力で労働条件の改善を実現できないならば、政府が直接労働条件の決定に乗り出すしかない、というのが今回の政府主導の「働き方改革」のロジックといえる。労使自治が機能しない以上、国民の安全や社会の公正を守る義務のある国家権力が介入するのは当然、というわけだ。